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小説「廃屋の町」(第47回)

2017年7月30日ニュース

「冬場に備えて消雪パイプの補修が必要だし、冬になれば道路除雪も出てくる。雪崩が起きる場所だってある。雪が解けると、今度は除雪作業で傷んだ道路の補修が必要だ。梅雨や台風の時期になれば土砂災害で林道が流されるとか、毎年繰り返される小さな自然災害による道路の損傷に備えて、一定量の維持補修予算が確保されているんだ。維持系の公共事業予算って呼んでいるんだけどね。これが地元建設業者の安定した収入源になっている。建設業者の食い扶持ってとこかな。一方、道路の新設や公共施設の建設など、新設系の公共事業の方は、事業が終われば予算は付かなくなる。もっとも、道路が損傷した場合の維持補修や老朽化に伴う施設の修繕は維持系の公共工事として残るけどね。建設業界を有力な支持母体に持つ民自党の県議会議員は、維持系の公共事業予算の確保に腐心しているよ。特に選挙の年になると、建設業界の票を当て込んだ民自党からは県政与党という立場を利用して、公共事業予算の増額要望が県に出される。要望どおりの予算を確保した後は、『箇所付け』といって、公共工事の施工場所を巡って民自党の議員の間で予算の分捕り合戦が行われるんだ。この時に、個々の議員の力量の違いが出てくる。より多くの公共事業予算を自分の選挙区に持ってくれば、選挙の時に建設業界が強力な集票マシーンとなって動いてくれるからね。その点、田沼市選出の山田県議は大きな力を持っているよ」
「この前、ウチの店で建設業協会の総会があって、その後に行われた懇親会の席で、来賓の山田県議が挨拶の中で、田沼市内で行われる県の事業予算を大幅に増やしたことで、民自党の同僚議員からやっかみを買ったというような話をしていたけどね」風間が言った。
「これだけ沢山の公共事業予算を地元に持ってくるんだから、来年春の県議選には沢山の票を集めて欲しいってことね。田沼市内で行われている県の公共事業って、どんなのがあるの?」久保田が尋ねた。
「大きな事業といえば、田沼川の河川改修工事があるね。田沼川は安曇野連峰を水源に田沼市内を流れる二級河川で県が管理している。田沼川は総延長が約40キロある河川で、国が管理している一級河川の信州川に合流している。田沼川は川幅が狭いので、梅雨期に水量が増えると堤防が決壊する恐れがあるということで、今、河口から20キロの区間で川幅を広げる工事をしている。右岸側は市街地になっているので、左岸側の田んぼを買収して川幅を広げる工事が行われているんだ。総事業費は約400億円、事業の実施期間が20年だ」
「400億円と言えば市の年間予算と同じくらいだね。400億円を20年かけて田沼川の改修工事につぎ込む。平均すれば毎年20億円もの公共事業予算が田沼市内で使われているんだね」甘木が言った。
「そして県工事を受注するのは田沼市の建設業者ということか。当然のことながら、山田県議の実兄が経営する山田組も工事を受注しているってことだろうね?」風間が言った。
「もちろんだよ」
「上手くできているね。山田県議は挨拶の中で『田沼川の改修工事は私のライフワークだ』って言っていたけど、実兄が経営する建設会社の利益確保という趣旨も含んでいたんだね」風間が言った。
「公共工事や予算のことについてはだいたい分かったわ。市が発注する公共工事の入札で官製談合が行われているって話だけど、入札についてはまだ分からなことが多いわ」久保田が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者