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小説「廃屋の町」(第39回)

2017年7月14日ニュース

「事業の計画段階で、事業を実施する国や県が、事業費の一部を負担する私ら農家を集めて説明会を開くんだけど、担当者は『この事業を実施することによって、作業時間が短縮しますとか、作業効率が上がります』といったことを言うんだが、おかしいなと思ったね」
「どうしてですか?」風間が尋ねた。
「我々、米農家はいろいろな農機具を使って米を生産している。田んぼで使う農機具を挙げれば、トラクター、田植え機、除草機械、刈り取り機などがある。作業時間が短縮しても、余った時間で何をすればいいんだろう。『兼業農家の農作業を請け負えばいいじゃないですか』って国や県の担当者は言うけれど、兼業農家も農機具は一揃え持っている。そんな簡単な話じゃないね。それにもっとおかしな話があるよ」
「おかしな話?」甘木が尋ねた。
「圃場整備事業といって、事業が行われる区域に点在する小さな区画の田んぼを、所有者ごとに集めて大きな区画の田んぼにするために行われ土地改良事業のことだよ。事業費も大きくなるし農家負担も上がる。圃場整備事業が終わると、換地処分によって、田んぼの所有権が施工前に点在していた小さな区画の田んぼから、集約化されて大きな区画になった田んぼに移るんだ」
「換地処分?」風間が尋ねた。
「現況に合わせて土地の権利関係を一斉に変えてしまう法的な手続きだよ」甘木が答えた。
「甘木さん、よく知っていますね。この時、大きな区画に届かない農地の所有者は、清算金をもらって農地を手放してしまうんだ。小規模な農家が手放した農地を担い手の農家に集めて大きな区画にした後、土地の所有権も大きな区画に合わせて登記される」
「一度に登記をやれば、登記手数料もばかにならないですね」風間が尋ねた。
「『嘱託登記』といって、事業主体の公共団体が登記手続きを行うため、登記手数料は一切かからないんだ」
「それって税金を使うってことですか?田んぼは農家の個人財産ですよね。その個人財産に対して行われる公共事業に多額の税金が投入されているって、矛盾を感じますね。私は、町場で飲食店を経営していますが、店も農地と同じように商売に必要な固定資産ですよ。昨年、店を改装した時に、金融機関から公的な融資は受けましたが、行政からの補助金は、一切なかったですよ」風間が不満顔で言った。
「農業に税金を使っているのは日本だけじゃないよ。国内農業を保護するための政策は欧米諸国でも行われているよ」甘木が言った。
「甘木さん『食料安保』って言葉を知っていますか?」
「ええ、知っています。生きていく上で必要な食料を、必要な時に安定的に入手できる権利のことですよね。日本のような食料自給率の低い食料純輸入国では、セーフティーネットとしてとらえているようですが……」
「そのとおり。米の自給率は100%だが、米以外の食料自給率は非常に低くなっているよ。米の国内自給率が100%なのは、我々米農家が頑張っているからだよ。頑張っている農家に行政が税金を使って支援をするのは、ごく自然だと思うけど、その税金の使い方がおかしいと思っているよ」
「具体的にどんな点ですか?」甘木が尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者