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小説「廃屋の町」(第36回)

2017年7月8日ニュース

「後継者がいないという話はよく聞くよ。俺たちが若い頃は、家業を継ぐのが当たり前という雰囲気があったけど、今は違うようだ。ウチだって分からないよ。店の手伝いをしてもらっている息子には店を継いでもらいたいと思っているんだが、いい勤め先があれば就職したいと息子は言っている。会社勤めであれば、毎月、決まった給料が入るしボーナスも出る。それに休みもある。家業を継ぐよりも会社勤めをした方がいいと考えている若者が多いんじゃないかな」風間が言った。
「後継者難から廃業に追い込まれる中小零細な事業者が多いという話はよく聞くよ。小島君、ありがとう。商店街の抱える様々な課題が見えて来たよ。小島君からもらった意見や要望は市長選に向けた政策に入れておくよ」甘木は礼を言った。
「甘木、よろしく頼むよ。ところで選挙事務所はどうするんだ?早めに押えていた方がいいよ」
 小島が言った。
「それがね、まだ決まっていないんだ。年内には場所を確保しておかないと、選挙準備に間に合わないからね。どこか選挙事務所に使えるいい場所はないかね?」風間が尋ねた。
「ご覧のとおり商店街は空き店舗が増えている。空き店舗を選挙事務所に使ったらどうだい?」
 小島が提案した。
「それはいい考えだな。我々、同級生の星、甘木雄一が商店街の再生を錦の御旗に掲げて市長選に出馬する。絵になるね。小島、駐車場を備えた空き店舗がいいんだけど、どこがいいかな?」
 風間が言った。
「駐車場付きなら山上電気店なんかどうだい?あの店の駐車場なら車が十数台は停められる。選挙事務所にぴったりだと思うよ」小島が言った。
「じゃ、山上さんの店にしよう。甘木、いいよな」風間が言った。
「僕は、そこで構わないよ」
「よし、これで決まり。小島、悪いけど、店主に話を付けておいてもらいたいんだけど、いいかい?」
「分かった。俺に任せてくれ」
「しかし、山上電気店さんの向かいも空き店舗だったけど、いつの間にか居酒屋になったね」
 風間が言った。
「『寄り道』って店だろう。この前、新聞に折り込みチラシが入っていたよ」
 小島が店の奥から持って来たチラシを風間に渡した。
「この『作業服でのご来店大歓迎!午後7時までにご来店の方には、生ビールを半額でご提供!』って書いてあるけど、この『作業服でのご来店』って、どういう意味だい?」風間が小島に尋ねた。
「何でも、この居酒屋のオーナーが山田組社長の奥さんだって話なんだ。山田組の従業員の福利厚生として始めた居酒屋らしいだが、従業員だけでなく一般の人からも利用してもらおうということで、『寄り道』って看板を表に出して、新聞に折り込みチラシを入れたってわけさ」小島が言った。
「土建屋が空き店舗に出店するなんて、すごいな!サイドビジネスに金を回せるほどに、建設業界は儲かっているんだろうな」風間が驚いた様子で言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者