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小説「廃屋の町」(第103回)

2017年11月17日ニュース

「おそらく、当時、入札係の主任をしていた坂井盛男だと思います」
「坂井って職員は、今どこの部署にいるんだ?」
「財政課の予算係長をしています」
「財政課?財政課長の杉本のところかね?杉本は市長選に出る甘木の中学時代の同級生だそうだね?」
「はい、そうです。観光振興課長の木下信行も甘木の同級生です」
「大事なこの時期に、3年前の市立病院の建設工事の入札で官製談合が行われたなんて、世間に知られたらどうなるか、君、分かっているだろうね?」
「は、は、はい、分かっています。それで私はどうすればいいんでしょうか?」
「忖度してくれたまえ?」
「ええ、忖度?」
「私の胸中を推し量れば、今、君のやるべきことは分かるだろう?」
「は、は、はい、充分に分かっております。それではこれで失礼します!」
 中山は足早に市長室を出て行った。
 井上市長は山田県議の携帯に電話をかけた。
「市長の井上です。建設業協会の賀詞交換会ではお世話になりました。実は大変な事が起きまして、それで県議さんに電話をしましたが、今、よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。市長、大変なことって、一体何だね?」
「昨日、長野日刊新聞社に市立病院の移転新築工事の入札で官製談合が行われたという情報提供があったらしくて、さっき新聞社の田辺って女性記者が中山総務部長のところに、取材に来ました。中山部長は、入札は法令や規則に従って適正に行われたと記者に話したそうですが……。新聞に載ったりしますかね?」
「市長、大丈夫だよ。新聞には載らないと思うよ。談合情報が入札前にマスコミに伝われば、新聞に載るだろうけど、終わった後のしかも3年前の入札だろう。恐らく電話による匿名の情報提供だったんだろうね。田辺って記者は、寄せられた匿名情報の裏付け取材に中山部長のところに行ったんだと思うよ。ところが中山部長の話からは裏が取れなかったので、諦めて帰ったというわけだよ。でもその記者が物証を掴んでいれば話は別だ」
「物証?」
「例えば、官製談合が行われたことが分かるような、関係者のやり取りを記録したメモとかが新聞社に渡っていれば、まずいことになるがね……」
「メモはないと思います。記者は中山部長の話を渋顔で聞き終えた後、そのまま帰りましたから、メモとかの物証は持っていないと思いますよ」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第102回)

2017年11月15日ニュース

「市長は今、部屋にいる?ちょっと話したいことがあるんだけど……」
 慌てた様子で中山は秘書係長の日下部に尋ねた。
「大丈夫ですよ。市長は在室しています。部長、どうかされたんですか?顔色が良くないですが?」
 日下部が言った。
「いや、何でもないよ。この後は、市長の公務予定は入っているの?」中山が尋ねた。
 日下部は日程表を開いて、
「いえ、この後、午前中は何も入っていませんが……」と答えた。
「分かった。ありがとう」
「中山です。失礼します」中山が市長室に入った。
「どうしたね?中山君、顔色が良くないね。体調でも崩したかね?総務部も新年度予算編成で大忙しだろうね。インフルエンザが流行っているそうじゃないか。体調管理には気を付けた方がいいよ」
 井上が言った。
「実は、先ほど長野日刊新聞の田辺結花という記者が、3年前に行われた市立病院の移転新築工事の入札について話を聞かせてもらいたいと言って、私のところに取材に来ました。田辺記者が言うには、その時に行われた入札が官製談合だったという情報が長野日刊新聞社に寄せられたということですが……」
「官製談合だって!新聞社にリークしたのは誰だ?3年も前に行われた入札の話が、どうして、今になって出てくるんだ。で、君は記者にどう答えたんだね?」
「法令や財務規則、入札要綱に基づき適正に行われた入札だと、議会の議事録を見れば分かるって答えました」
「確か、改進党の明間議員が、市議会で市立病院の入札執行について質問していたね。思い出したよ。最初に私が答弁して、再質問で入札課長だった君が答弁してたね?」
「はい、そうです。議会で答弁したとおりに記者に答えました。記者は納得しかねるような顔つきをしていましたが、それ以上の追及はありませんでした」
「それでいいんだよ。しかし、どうして今になって、3年前の入札の話が突然、出て来るんだろうか?3か月後に市長選挙が行われるこの時期に、こんな話が出てくるなんて、誰かが謀略をめぐらしたんじゃないか?」
「リークした人物を尋ねましたが、記者は教えてくれませんでした」
「そりゃ当然だよ。記者に聞いても情報源は絶対に明かさないよ」
「多分、新聞社に情報提供した人物は職員だと思うんですが……」
「多分じゃない!間違いなく市役所内から情報が漏れたんだよ。君を入札課長から総務部長に抜擢した私の気持は分かっているだろう?」
「はい、一足飛びで総務部長にさせていただいた市長のお気持ちは充分に分かっています」
「市立病院の入札情報が建設業協会に漏れていたという事実は極秘情報だったはずだ。君は入札課長として、その極秘情報を管理する立場にあったんじゃないか?」
「はい、そのとおりです」
「誰だね?情報を漏らした職員は。君なら検討がつくだろう?」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「廃屋の町」(第101回)

2017年11月13日ニュース

 1月中旬、田沼市役所に入った長野日刊新聞記者の田辺結花は2階フロアーに向かった。
「すみません、長野日刊新聞の田辺結花と申しますが、取材に伺ったんですが……。中山部長さんはいらっしゃいますか?」田辺が窓口にいる職員に名刺を渡して言った。
「少々、お待ちください」
「部長、長野日刊新聞の田辺さんという方が取材に来ましたが……」
 窓口職員が田辺記者の名刺を中山に渡して言った。
「何の取材だろう?いいよ。部長室に通してくれないか」
「はい、分かりました」窓口職員は田辺記者を部長室に案内した。
「総務部長の中山ですが、どういった件での取材でしょうか?」
「官製談合の件でお聞きしたいことがありまして、伺いました」
「ええ、官製談合だって!それって、入札情報が発注者側の市役所から業者側に漏れているっていうことですか?そして入札情報の漏洩にうちの職員が関与しているってことですか?」
 中山は動揺した様子で言った。
「官製談合が行われたのは、3年前に行われた公共工事の入札ですが、田沼市が発注した市立病院の移転新築工事の入札情報が市役所から業者側、正確に申し上げますと建設業協会に漏れていたという通報が、昨日、ウチの新聞社に寄せられました」
「ええ!市立病院の移転新築工事だって!」
 当時、入札課長だった中山は顔面蒼白になった。田沼市は3年前に老朽化した市立病院の移転新築工事を発注した。国道バイパス沿いの農地を病院用地として買収し病院を新築した。井上将司市長は市立病院の移転新築を三期目の市長選の公約に挙げていた。総事業費は土地の取得費や造成費を含めて約130億円に上った。新病院の建設工事の入札は共同企業体(JV)方式で行われ、全国ゼネコン、県内ゼネコン、田沼市に本社のある地元建設会社の3社でJVを組織して入札に参加することになっていたが、実際に入札に参加したのは、県内ゼネコンの信州建設と森山組、それと地元建設業者の山田組の3社で構成するJV一者しかなかった。1回目の入札は応札額が予定価格を上回ったことから不落になった。10分後に2回目の入札が行われた。入札に一者しか参加しなかったことや、1回目の応札額に本来であれば控除されるべき消費税分が入っていたこと、落札額が予定価格に近い99.9%だったことなど、入札執行に不自然な点が多いと、改進党系の議員から指摘され、当時の市議会で議論になったが、未だ真相は闇の中だ。
「オタクに官製談合をリークしたのは誰ですか?うちの職員ですか?」
「情報源は申し上げられません。中山部長は、市立病院の建設工事の入札が行われた当時の入札課長でしたよね。この入札執行については覚えていらいしゃいますよね?JV一者による入札参加、1回目の応札額に本来は含めない消費税分が入っていたこと、間を置かずに2回目の入札が行われたこと、予定価格に極めて近い落札額だったこと、など不自然な点がたくさんあったじゃないですか!」
「その件については、当時の市議会の一般質問にも出されましたが、法令や財務規則、入札要綱に基づき適正に行われた入札だと、私は答弁しています。何なら議事録を見て確認してくださいよ。たまたまそうなっただけで、不正な事は一切行われていませんよ!不愉快だ。帰って下さいよ!」
「そうですか。ご協力ありがとうございました」
 中山は2階の窓から、長野日刊新聞の田辺記者が市役所庁舎を出たことを確認して、急いで市長室に向かった。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第100回)

2017年11月11日ニュース

「協会の年会費徴収、個人献金や入札協力金の振り込み、その他にもTK口座の用途があるってことですか?」甘木が尋ねた。
「はい、選挙になると票の取りまとめのための資金がTK口座に振り込まれます」青木が言った。
「その資金は誰から振り込まれるんですか」風間が尋ねた。
「県議選は山田県議の陣営から、市長選は井上市長の陣営から、票の取りまとめに必要な資金が振り込まれます」青木が答えた。
「それって、公職選挙法でいう買収じゃないですか?」久保田が言った。
「買収になるかどうかは分かりませんが、私の場合は、会社の親睦会経費に充てていました。私は親睦会の挨拶で、県議選は山田良治さんに頼むとか、市長選は井上将司さんに頼むとかは言いましたが、従業員に現金を配ることはしませんでした」青木が言った。
「青木さん、建設業協会の管理下に置かれたTK口座を経由した政治資金と選挙資金の流れ、入札談合や官製談合の実態などを話してもらいましたが、この他に話したいことがありますか?」
 加藤が尋ねた。
「いいえ、これで全部です」青木が言った。
「青木さんのお話を聞いて、建設業界の裏事情がよく分かりました。内部にいる者でしか知り得ないことを私たちに話してくれた青木さんの勇気に感謝します。ありがとうございました。しかし建設業界は言わば『ムラ社会』です。ムラ社会の掟を破った青木さんに対して、この先、協会からいろいろな形で、制裁を受けると思いますが、大丈夫ですか?」甘木が心配そうな顔付きで言った。
「入札からの締め出しや元請けからの不当な値引きなどが考えられますが、覚悟はできています。最初に言ったように、市が入札に出す工事はA、Bランクの大きな建設会社しか受注できないものが多いので、事実上、私らC、Dランクの中小の建設会社は入札から締め出されています。そのため、我々は、A、Bランクの業者が元請けで受注した工事を下請けや孫請けでもらって生きています。しかも不当に値引きされた請負額です。これは誰が考えてもおかしい仕組みだと思います。甘木さんから市長になってもらって、この不条理な悪しき業界慣行をやめさせ、公平な入札が行われるようにしてもらいたいんです!」青木は甘木に真剣な眼差しを向けて言った。
「分かりました。市長に当選したら入札改革を最優先の市政課題として取り組んでいきたいと思います」甘木が言った。
「よろしく、お願いします」青木は目に薄っすらと涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第99回)

2017年11月9日ニュース

「はい、田沼市建設業協会の頭文字をとって『TK』です。このTK口座を経由して、会員企業から年会費を徴収したり、逆に個人献金を振り込んだりしています。もちろん、年会費の領収書の宛名は会社名義ですが……」青木が答えた。
「すごいわ!政治資金の集金・分配システムが出来上がっているのね!」久保田が言った。
「このTK口座は、もう一つ別の用途でも使われています」青木が言った。
「もう一つの用途?」甘木が尋ねた。
「入札参加協力金の決済口座です」青木が言った。
「入札参加協力金?」久保田が尋ねた。
「落札業者から落札できなかった入札参加業者に支払われる協力金です。形だけ入札に参加した業者に対して、落札業者から支払われる手間賃です」青木が言った。
「形だけ入札に参加した業者って、どういう意味ですか?」風間が尋ねた。
「落札予定の業者以外の入札参加業者のことです。最初から落札することを考えていない業者のことです。実は、入札前に落札する業者が決まっています。」青木が答えた。
「入札前に落札する業者が決まっているって、それって談合でしょう?」久保田が尋ねた。
「そうです。入札談合です」青木が言った。
「それと、今、入札協力金って聞いたけど、落札業者は落札しなかった業者に対して、幾ら払うんですか?」久保田が尋ねた。
「例えば、A社が1000万円で落札したとします。この工事の入札にはA社のほかに10社が参加したとします。そうしますと、落札したA社は落札額1000万円の1%にあたる10万円を、入札協力金として10社に1万円ずつ、均等に支払います。この入札協力金の決済は協会に預けているTK口座を介して行われています」青木が答えた。
「1億円の工事を受注すれば、1社あたり10万円の入札協力金が支払われるということか」
 風間が言った。
「建設業協会に支払う実績割の年会費が受注額の2%。それと形だけ入札に参加した業者に支払われる入札協力金が受注額の1%。合わせて3%になります。田沼市が発注する公共工事の平均落札率が95%以上と県内市町村の平均と比べて極めて高くなっていることと何か関係があるんでしょうか?」
 甘木が尋ねた。
「田沼市の公共工事の落札率が高止まりになっているのは、発注者側から入札情報の提供があるからです」青木が答えた。
「それって、官製談合ってことでしょう?」久保田が尋ねた。
「そうです。入札談合にしろ、官製談合にしろ、これらの調整は建設業協会で行われています。山田信夫会長と市役所OBの栗山守男事務局長の二人が采配しています」青木が答えた。
「栗山守男って、市の建設課長をやった人じゃないの?」久保田が言った。
「そうです。建設業協会の事務局長のポストは、合併前から田沼市建設課長の天下りポストになっています」青木が答えた。
「だから、市が発注する公共工事の入札情報も入手し易やすくなっているんだろうね。特に予定価格は喉から手が出るほどに欲しい入札情報だからね」風間が言った
「実は、協会が管理しているTK口座には更に、もう一つの用途があるんです」青木が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第98回)

2017年11月7日ニュース

「協会経由で個人献金をする場合、寄附の額はどのようにして決まるんですか?個人献金の場合、一人年間150万円までとなっていますが……」甘木が尋ねた。
「政治献金に回す協会の剰余金は団体献金用と個人献金用に振り分けられます。振り分けの基準は分かりませんが……。次に、個人献金の寄附額をどうやって決めるかですが、協会加盟の建設会社が受注した公共工事の受注額の総額を集計して、発注者別、受注者別に仕分けします。出来上がった仕分表に基づき個人献金用に回される剰余金が案分されます。例えば、個人献金に回す剰余金が5000万円だとします。また協会加盟の建設会社が市から受注した年間の公共工事の総額が100億円だとします。青木建設が受注した市の公共工事が総額で1億円だったします。私、青木敏夫の個人献金は、1億円割る100億円掛ける5000万円で50万円となります。この50万円は井上市長の資金管理団体『将進会』に寄附されます」青木が答えた。
「青木さんご自身が寄附をされるんですか?」甘木が尋ねた。
「いいえ、違います。協会が私の名義を使って、井上市長の資金管理団体に寄附をするんです。後で、協会から私名義で振り込んだ個人献金の振込先と金額を書いた一覧表が領収書と一緒に送られてきます」青木は一覧表を甘木らに提示した。
「へえ!こんなのがあるんですね。ところで、この一覧表をもらってどうするんですか?」
 甘木が手に持った一覧表を見た風間が尋ねた。
「この一覧表は税金の優遇措置に使えるんです。個人が政党や政治資金団体、それに県議の資金管理団体に寄附した場合、所得控除や税額控除の対象になって、税金が戻って来るんです」青木が答えた。
「個人献金を集め易くするための税制上の優遇措置があるんですね。協会が青木さんの名義を使って個人献金をするって、さっき言いましたが、そんなことができるんですか?」甘木が尋ねた。
「はい、できます。協会に加盟している建設会社は、協会の口座がある金融機関に社長名義の預金口座を開設しています。その預金口座のキャッシュカードを協会に預けることになっています。この社長名義の口座のことを『TK口座』と呼んでいます」青木が答えた。
「TK口座?」久保田が尋ねた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第97回)

2017年11月5日ニュース

「はい、今言った建設業協会の余剰金は、団体献金として民自党長野県連田沼市支部に寄附されています」青木が言った。
「御存知のとおり、民自党長野県連田沼支部長は山田良治県議です。青木さん、続けてください」
 加藤が青木に促した。
「はい、また余剰金は個人献金として、山田県議と井上市長の政治団体にも寄附されています」
「山田県議と井上市長は、それぞれ個人献金の受け皿となる資金管理団体を持っていますので、これらの団体に対して個人献金が行われているということです」加藤が言った。
「確か、政党や政治資金団体、その他の政治団体が個人や団体から寄附を受けた場合、政治資金収支報告書に記載することになっていますが……」
 甘木が尋ねた。
「そのとおりです。県内にある政治団体の場合、毎年、政治資金収支報告書を作成して県の選挙管理委員会に提出することになっています。提出された政治資金収支報告書は公表されています。しかし、政治家個人が受け取った個人献金は選挙管理委員会への報告義務がないので、誰がどれだけの寄附をしたのかは分かりません」加藤が言った。
「一人が年間150万円を超える寄附をしても、分からないということですね?」風間が尋ねた。
「そうです。全くのブラックボックスです」加藤が言った。
「青木さん、団体献金の寄附者は建設業協会で、寄附の相手は民自党長野県連の田沼市支部ということですね?」甘木が確認した。
「はい、そうです」青木が答えた。
「さっき、協会の剰余金は個人献金として、山田県議と井上市長の政治団体にも寄附されている、という話でしたが、寄附者は誰ですか?団体である建設業協会は、個人献金はできないはずですが……」
 甘木が尋ねた。
「公共工事を受注した建設会社の社長個人が、個人献金として山田県議や井上市長の資金管理団体に寄附しています。県の工事を受注した場合は山田県議の、市が発注した工事を受注した場合は井上市長の、それぞれの資金管理団体に寄附しています」青木が言った。
「青木さんは山田県議や井上市長の資金管理団体に個人献金をしたことはあるんですか?」
 甘木が尋ねた。
「ウチは県の工事を元請けで受注したことがないので献金はしていませんが、協会に入っていた頃は、さっきも言ったように市の工事を年間十数件受注していたので、井上市長の資金管理団体に寄附したことはあります」青木は答えた。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第96回)

2017年11月3日ニュース

「青木建設の社長をしております青木敏夫と言います。ウチの会社は、土木工事を主体にした従業員が15人の小さな建設会社です。市の入札参加資格者名簿には、『土木』でCランク、『建築』でDランクの施工業者として登録されています」
「土木がCで建築がDですか。青木さんの会社では、市の公共工事を受注する機会は、年間どれくらいありますか?」甘木が尋ねた。
「はい、元請けでは年に5、6件受注していますが、多くは下請けや孫請けです。実際、市が入札に出す工事の多くはAやBランクの大きな業者しか受注できない工事です。細分化して1000万円以下の小さな工事にしてくれると、我々、中小の業者も受注することができるんですが……」
「そうすると、青木建設さんは元請けよりも、A、Bランクの業者が受注した大きな工事が細分化されて小さくなった工事を、下請けや孫請けで受注しているってことですか?」風間が尋ねた。
「はい、そのとおりです。県が発注する工事でもそうですが、元請けで受注すれば、それなりの儲けは出てきますが、下請けや孫請けで仕事をもらっても、雀の涙ほどの利益にしかなりません。しかし、安い仕事だからといって断れば、私らは食べていけません。儲けの少ない安い仕事だと分かっていながらもらっています」
「ところで、青木建設さんは建設業協会に加入されているんですか?」甘木が尋ねた。
「今は入っていません。去年の3月に協会を脱会しました。そしたら、なぜか、受注回数が減ってしまいました。協会に入っていた頃は年に十数件は受注できたんですが、今は5、6件と、協会に入っていた頃と比べて半分以下になりました」
「どうして協会を脱会されたんですか?」甘木が尋ねた。
「年会費が馬鹿にならない額ですからね」青木が答えた。
「そんなに高いんですか?年会費は幾らなんですか?」風間が尋ねた。
「年会費は均等割と実績割の二種類あって、均等割りは会社の規模に関係なく一律一社10万円です。一方、実績割の方は請負額の2%です。例えば1000万円の工事を受注すれば、実績割は20万円になります」青木が答えた。
「田沼市の今年度の公共工事予算は約67億円だから、市が発注した公共工事を建設業協会加盟の建設会社が全部、受注したと仮定すると、実績割は総額で約1億3000万円にもなるよ。それに国や県が発注する田沼市内の公共工事を受注すれば、総額はもっと増えることになるね。建設業協会の事務所経費や職員の人件費を差し引いても、かなりの余剰金が出ているんじゃないのかな?」
 風間が電卓を叩きながら言った。
「余剰金は数千万円規模になりますね」青木が答えた。
「ええ!そんなにあるんですか!」久保田が驚いた様子で言った。
「実は、この数千万円規模の余剰金が政治献金に回っているんです」青木が答えた。
「ええ!政治献金だって?税金が政治献金に化けているんだって?」風間が驚いた顔付きで言った。
「政治献金については、私の方から説明します」と加藤が言って、話を続けた。
「政治資金規正法によって、政治献金は誰が誰に対して年間幾らまで寄附できるかが決まっています。政治献金は、誰による寄附かで団体献金と個人献金に分けられます。団体献金は、業界団体や労働組合、宗教団体などによる寄附で、寄附の相手は政党や政治資金団体です。一方、個人献金の方は、個人による寄附で、寄附の相手は政党や政治資金団体、その他の政治団体、政治家個人です。団体献金も個人献金も年間の寄附額に制限があります。団体献金の方は750万円から1億円の範囲です。一方、個人献金の方は政党や政治資金団体に対しては無制限ですが、その他の政治団体や政治家個人に対しては、150万円までです。政治献金についての一般的な説明はここで終わりにして、青木さん、話を続けて下さい」
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第95回)

2017年11月1日ニュース

「井上市長は文化会館と総合体育館の建設を、市長選の目玉になる政策として挙げています。この2つの公共施設は、2年後に迎える合併10周年の記念行事の一環として建設するそうですが、これについて、どのように考えますか?」明間が甘木に尋ねた。
「事務所開きの時に取材に来た長野日刊新聞の記者からも同じような質問を受けましたが、文化会館と総合体育館の建設に反対という立場ではありません。新市にふさわしい新たな公共施設の建設が本当に必要なのか。その必要性について時間を掛けて検討すべきです。検討の結果、新たな施設が必要だということになれば、将来の人口規模に見合った適正な規模にすべきです」甘木が答えた。
「その点は、我々も同じ考えです」明間が言った。甘木は話を続けた。
「昨年10月に策定された『田沼市人口ビジョン』によると、合併当初の11万人余りの人口が8年後の今年には10万2000人ほどに減っています。単純平均すると、1年で千人ずつ人口が減少しています。公共施設の建設資金は借金をして調達しますが、その借金を4、50年かけて返済します。仮に、50年かけて借金を返済すると考えた場合、その間に人口が5万人も減ってしまいます。11万人の人口が50年後に半分くらいになってしまうという人口推計を考慮に入れて、公共施設を新設すべきです」
「甘木さんの『まちづくり八策』に『五十年先を見据えたまちづくりを提案します』とありますが、そういう意味だったんですね」
 明間が言った。
「はい、市街地の住宅街を一軒一軒、挨拶に回った時、このことを強く感じました。住宅が新築された頃は家族5人で暮らしていたけれど、住宅ローンが完済した3、40年後の今は、高齢者だけで暮らしている住宅が意外と多いことが分かりました。まだ使える広い家に高齢者が一人、または二人で暮らしている現実を目のあたりにしました」
「公共施設の場合も利用者が減って同じような状況になるということでしょうか?」明間が言った。
「そうです。それと新たな公共施設の建設について検討する場合、並行して、既存の類似の施設をどうするかも考えるべきです」甘木が言った。
「井上市長は、合併前の4か市町村にあった公民館や体育館は、大規模改修して存続させると言っていますが……」明間が言った。
「人口減少を考慮に入れない過剰な公共投資には反対の立場です。無駄な公共事業の付けを払うのは子供たちです」甘木が言った。
「井上市政が始まって間もなく12年が経ちますが、県の土木部出身の市長だけあって、公共事業偏重の市政運営が続いています。無駄な公共事業を減らして、生活者の暮らし向きが少しでも良くなるような政策に予算を回すべきだと考えているのですが、市長派市議が過半数を占める今の市議会では、我々の少数意見は、市政に届かないのが現状です」明間が言った。
「私も皆さんと同じ考えです。コンクリートに投資しても、経済効果はその時だけで長くは続きません。一方、人に投資すればその効果は計り知れません。例えば、田沼市からノーベル賞の受賞者が出た、なんてことになると、すごいことになると思いますよ」甘木が言った。
「おっしゃるとおり。人口減少が静かに、そして確実に進むなか、コンクリートに投資しても、それは税金の無駄遣いだと、私たちも考えています。市民の利益よりも建設業界の利益を第一に考えている井上市政ですが、市が発注している公共工事で官製談合が行われているという情報が、我々のところに入ってきました」明間が言った。
(作:橘 左京)

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小説「廃屋の町」(第94回)

2017年10月30日ニュース

「我々、改進党の支持母体は労働組合の全国組織『連帯』です。もちろん連帯の県組織もあります。田沼市にも支部があり官民の労働組合で組織されています。単刀直入に言えば、改進党が甘木さんを推薦または支持をすれば、これら労働組合の組織票を甘木さんに差し上げることができます。参考までに、現職の井上市長は民自党の推薦を受けたそうです。そして、甘木さんがめでたく市長に当選したら、秋の市議選に出馬する改進党系の市議を応援していただきたいと考えています」加藤が言った。
「我々、改進党系の市議は現在八人で『新生会』という会派を作っています。秋の市議選では、現職のほか新人3人を擁立して現有議席を8から11に増やしたいと考えています。改進党の推薦や支持を受けた甘木さんが市長に当選すれば、我々、改進党の市議は市長与党として、共立党の市議2人と連携して甘木市政を支えていきたいと考えています」
 明間が言った。田沼市議会は、民自党系会派の「田沼クラブ」が17人、改進党系会派の「新生会」が8人、共立党が2人、それに無所属3人の合計30人で構成されている。
「甘木、いい話じゃないか。草の根で集めた個人票だけでなく、労働組合などの組織票も、ウチの陣営に取り込めれば、こっちの勝算も上がってくるだろう。ところで市役所の職員組合の票も、こちらにもらえるんですか?」風間が明け透けに言った。
「もちろんです。公務員労組の組織票も入っていますから」明間が言った。
 甘木はしばらく考えた後、
「改進党さんから、推薦なり支持を頂きたいと思いますので、よろしくお願いします」と言って深々と頭を下げた。
「分かりました。より強い連携・協力関係を示す『推薦』候補として、県連に上申したいと思います」
 加藤が言った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」と言って甘木は加藤に礼を言った。
「選挙協力の件については、ここで終わりにします。次に、政策面での調整をしたいと思います」
 明間が言った。
「政策面での調整って、どんなことですか?」風間が尋ねた。
「これは、甘木さんが今月上旬の新聞折り込みに入れた市長選向けの政策ですね?」
 明間がアタッシェケースからB四版両面刷りの折り込みチラシを取り出して言った。
「はい、そうです。新聞の折り込みチラシとして市内に配布しました」甘木が答えた。
「甘木さんの『まちづくり八策』に挙げている政策は、我々、改進党の政策と重なる部分が多いんですよ」明間が言った。
「と言いますと?」甘木が尋ねた。
「我々は、甘木さんの『まちづくり八策』が生活者の視点に立った政策だと考えています。改進党の政策綱領も生活者の利益を第一に考えて作ってあります。改進党が甘木さんとの選挙協力を申し出た趣旨は、単にギブ・アンド・テークによって票の取引するのではなく、政策面での連携・協力関係を築いていきたいと考えたからです。政策面については、明間さんからお願いします」加藤が言った。
「はい、甘木さんの『まちづくり八策』の8番目に、『将来世代(子供たち)に資産として引き継げるように、合併前の旧市町村時代に建てられた公共施設の統廃合を進めます』と書いてありますが、これについて確認させてください」明間が言った。
「はい、どんな点でしょうか?」甘木が尋ねた。
(作:橘 左京)

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