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小説「廃屋の町」(第19回)

2017年6月2日ニュース

「そうです。今年2月に田沼市役所の職員の方から、市立病院の新築工事の入札で官製談合が行われたという情報が公正取引委員会に寄せられました。この案件については、私が担当しました」
「通報した職員は、坂井盛男という財政課の予算係長をしていた人物ではなかったですか?」
「はい、その方からです。坂井さんからの通報を受けて、私たちは、市役所の関係部署の聞き取り調査や入札に参加した建設会社の立入り調査を行いましたが、残念ながら官製談合が行われたことを示す証拠をつかむことができませんでした」
「斉木さんは坂井盛男、本人とはお会いになりましたか?」
「いいえ、会うことはできませんでした。坂井さんから公取委に提出された文書には連絡先の携帯電話の番号が書いてありましたが、電話をしても通じませんでした」
「本人は20日間ほど警察に拘留されていたので、携帯が通じなかったのかもしれませんね」
「警察に拘留されていた?」
「無免許運転で現行犯逮捕され拘留されていたそうです。拘留されている間に、彼は懲戒免職になったそうですよ。釈放された後、彼は廃業した実家の工場の中で首を吊って自殺しました」
「え、え!自殺したって!どういうことですか?」
「私もまだ、市長に就任する前の出来事なので、当時の詳しい事情は分かりませんが、坂井盛男の上司で財政課長の杉田昇をご存知ですか?同じ中学の同級生ですが……」
「ええ、知っています。部活では私と同じバスケット部に入っていましたから、よく覚えていますよ」
「彼の話では、当時、入札課で市立病院の新築工事の入札を担当していたのが坂井さんで、その坂井さんがマスコミに官製談合が行われてことを情報提供したらしいです。そのことに腹を立てた井上前市長ら市の上層部から排除されたというわけですよ」
「なんてひどいことを!でも今は甘木さんが田沼市長です。官製談合が行われた証拠は残っているはずです。文書で残っていなくてもパソコンに保存された電子データは残っているはずです。死を覚悟して不正行為を暴こうとした坂井さんのためにも、是非、真相を明らかにしてください」
「ありがとうございます。市立病院の新築工事の入札だけではありません。私は、井上市政の下で繰り返された公共工事の入札を巡る『政官業』の癒着構造にメスを入れたいと考えています」
「我々、公取委も新たな証拠が出てくれば調査を再開しますし、処罰可能とあれば検察当局への告発もできます」
「立場は違いますが、お互い正義のためにがんばりましょう!」
 二人は握手を交わして別れた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者