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小説「視線」(第17回)

2017年3月14日ニュース

 男は話を続けた。
「この前テレビで見た特報番組で自販機荒らしの手口を放送していたよ。昔は、夜間になると無人になる工場や倉庫、それに工事現場などにある自販機が狙われることが多かったそうだ。バールやハンマーを使って、なかには工事現場に置いてある重機を使って、自販機を壊して現金を抜き取っていたそうだ。しかし、人がいなくなる前に、自販機から現金を回収して、電源を切ってしまうことで、被害に遭わなくなったんだ。それに加えてパトカーの見回りが増えたこともあるそうだ」
「じゃ、犯人はどうやって、音も立てずに富田さんの店の自販機から現金を抜き取ったのかしら?」
「番組では自販機に物理的な力を加えずに現金を抜き取る手口が紹介されていたよ。自販機内部の回路をショートさせる方法だ。ニクロム線に繋いだ十円玉をコインの投入口に入れて、十円玉が入りきったら、ニクロム線に単三電池で電流を流す。すると自販機内部の回路がショートし、なかのコインが全て出て来るという仕掛けだ。しかし、こちらの手口も最新式の自販機には通用しないそうだ。富田さんのお店の自販機が最新式のものかどうかは知らないけど、最近の自販機には必ず防犯カメラが設置されているので、カメラに記録されている映像を分析すれば自販機の前で不審な動きをした人物は特定されるよ」
「富田さんの自販機が最新式のものかどうかは、私も知らないけど、盗まれたのは硬貨だけじゃないわ。紙幣も盗まれたのよ」
「そうか。紙幣も盗まれたのか。もしかして、インターネットを使って自販機を誤作動させる手口だったのだろうか?」
「インターネットを使って機械を誤作動させるって、どういうこと?」
「最新型の自販機のなかには、インターネットを介して外部の情報機器とデータのやり取りができる集積回路を内蔵している機種があるらしいんだ。例えば、自販機内の飲み物の在庫情報がインターネット経由でリアルタイムに販売会社に伝えられ、在庫が不足すれば補充される。一方、販売会社からは季節に合わせた飲み物の温度設定の指示がインターネット経由で自販機に伝えられる。これまで人間が行っていた監視を機械が代行できるようになったんだ。自販機の飲み物の補充は、まだ人間の手で行われているけど、いずれ機械が代行する時代が来るかもしれない。また、集積回路を内蔵した自販機は販売管理にも役立っている。何時、どんな飲み物が売れたのかも分かるので、売れ筋の飲み物を、一番多く売れる時期に投入することで、自販機を効率よく稼働させることができる。このように、コンピューター以外の多種多様なモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすることをIoT(アイ・オー・ティー)というんだ。話を元に戻すと、富田さんの自販機荒らしは、インターネット端末を使って自販機の集積回路にドアを開けるように指示を出して、現金を抜き取ったのかもしれないね」
「そんなこと、本当にできるのかしら」
「富田さんの自販機がこの手口でやられたのかどうかは分からないけど、不可能なことじゃないよ。IoT(アイ・オー・ティー)は家電製品だけでなく、自動車にも導入されているんだ」
「車がインターネットで繋がっているってどういうこと?」
「うちの会社、いや、務めていた会社でも、今、IoT(アイ・オー・ティー)を搭載した試作車を作っている段階だ。車に搭載されたセンサーや道路に設置されたカメラなどをインターネットと接続させることで、車同士の情報交換に行える。渋滞などの道路情報のほかに、道路の先の障害物情報や天候情報など、運転に必要な様々な情報がリアルタイムで送られてくるんだ」
「便利な時代になったものね」
「モノ同士がインターネットを介して情報交換できることで、確かに生活が便利になるけど、間違った情報が伝えられるとか、個人情報が流出するとか、セキュリティの面ではまだ、課題が残っているけどね」
「IoT(アイ・オー・ティー)が悪用されて、富田さんの自販機がやられたってこと?」
「断定はできないが、そういうことも考えられるということだよ」
 自販機荒らしは未解決なまま時が経過していった。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第16回)

2017年3月12日ニュース

 男が工場に務めていた頃は、妻や二人の娘に仕事の話をしても会話が成立しないことを、男は承知していた。娘二人がまだ家にいた頃、4人で囲む朝と夜の食卓の席には、男と妻が向かい合わせで座り、妻の隣には上の娘が、男の横には下の娘が座っている。「女三人寄れば姦しい」その後の時間を気にすることのない夕食時は、女同士の会話は賑やかだ。話題はその日の出来事や食べ物、ファッション、芸能界と、3人の会話は途切れることなく続く。男はいつも一人蚊帳の外に置かれる。もっとも男がこのような話題に全く関心がないことを、女たちは知っている。男の方も、女たちの会話が家の前を往来する車の音のように、左の耳から入って右の耳から抜けていく雑音でしかない。男は黙って手酌で晩酌し、食卓に並べられた料理を口に入れる。

 妻が昼に見たテレビのワイドショー番組を持ち出すと、娘たちは「分かる、分かる。そうよ、そうよ」と言って、妻が提供した話題に、有る事無い事を付け加えて話を盛り上げる。週刊誌の記事のように誇張気味に伝えるワイドショーの話が、女3人によって更に増幅され、夜のワイドショー番組として、夕食の席で放映される。ある時、妻がセクシャルハラスメントを話のねたを持ち出してきた。ある大手企業の男性上司が部下の女性に性的な言動を繰り返していたという話だが、その話が娘たちの勤める会社の男性上司に対する悪口へと発展していった。
「お父さんの会社でも、セクシャルハラスメントってあるの?」
 上の娘が、突然、男に質問した。
「うちの工場は男ばっかりの職場だ。そんなこと全く関係ないね」と男が答えると、今度は「男ばっかりの職場とはいっても、事務職の女性社員だっているでしょう?」と畳み掛けて質問を繰り返した。
「うちにも女性社員が何人かはいるけど、お前たちの会社と違って、座って仕事をしているオフィスじゃない。立って仕事をしている工場だ。そんなことができる職場じゃないぞ」男は不機嫌な表情を浮かべて答えた。

 二人の娘が就職や結婚で家を出てからは、男と妻との会話は二人が顔を合わす食事時に集中している。いや、「会話」というよりは「事務連絡」に近かった。仕事の話が妻に通じないことを、男は分かっているので、妻の仕事である家事が話題になる。帰宅時間が遅くなるとか、昼の弁当は要らないとか、出張の予定が入ったとか、妻が毎日回す家事ラインに支障を来たすような情報を、男は妻に手短に伝える。妻からは「はい、分かりました」という返事が返ってきて、そこで会話は完結する。
 男が事務連絡を忘れたことで、妻の嫌みが男に返ってくることが度々あった。そんな時は、男は「すみませんでした。今度から気を付けます」と言って謝罪する。「言わぬが花」言い訳をすれば、角のある言葉が返ってくることを、男は知っている。
 一方、妻の方も、趣味や友達付き合いの話をしても、仕事の事しか頭にない夫に通じないことを知っているので、夫にも少しは関係がある家事の話を持ち出す。明日のごみ出し日に出すごみの事とか、家で洗濯する普段着やクリーニングに出す外出着の事とか、妻の家事ラインに乗せる仕掛かり品について、妻は夫に手短に告げる。男は「分かりました」と返事をして、そこで会話が終了する。

 男が会社勤めを終え、男と妻との会話が1日3回と増えたが、共通の話題は増えていない。朝、昼、晩の食事時に会話が途切れ、静かになった台所に、カシャカシャと食器を動かす音とモグモグと咀嚼する音が、沈黙の時間を埋める。そんな事を気にすることなく、男は黙って食事をするが、妻の方は耐えられないのか、突然、今朝の新聞に載っていた政治や経済の話を出してくる。男も読んで知っていることなので共通の話題にはなるが、所詮は他所事。話は長くは続かない。しかし、二人が暮らす場所で起きた出来事の場合は別だ。関心もあれば関係も出て来るかも知れない。
「あなた、この前、回覧板で回ってきた交番の防犯チラシを見た?」
「町内会の会報は見たけど、防犯チラシは見なかったね」
「最近、町内で自動販売機荒らしがあったって、チラシに書いてあったわ。チラシを見て思い出したんだけど、もしかして富田さんのお店の自販機じゃないかしら、この前、買い物に行ったら、奥さんが『知らないうちに、店の前の自販機から現金が抜き取られた』って言ってわ」
「ええ!富田さんのお店の自販機がやられたって。知らなかったな。現金が抜き取られたと言うけど、自販機を壊せば音が出るだろうし、音が出れば富田さんや近所の人が分かるんじゃないのかな?」
 富田さんは、近所で小さなスーパーを経営している。自宅は店舗の隣にある。
「それが不思議なのよ。自販機は全く壊されていなかったんですって。朝、いつものように自販機から現金を回収しようとドアを開けたら、なかにあるはずの現金がすっかり無くなっていたんですって」
「不思議だね。夜間の静かな住宅街でバールやハンマーなどを使って自販機を壊せば、大きな音が出て周辺に住む人たちに気づかれてしまう。どうやって犯人は自販機を壊さずに、現金だけを抜き取ったんだろうね」
「それと、もう一つ不思議なことがあるのよ。富田さんの店の前には自販機が2台設置してあるんだけど、やられたのは飲み物の自販機だけで、アイスクリームの方は現金が入ったままだったそうよ。でも自販機の前にお守りが落ちていたんですって」
「お守り?犯人の遺留品かな?」
「菅原神社の学業成就のお守りだったそうよ」
「菅原神社?」男は、実家の氏神社も八幡神社だったことを思い出した。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない。そういえば、自販機荒らしの最新の手口を紹介した特報番組を思い出したよ」
「私、その番組を見ていないけど」
 (作:橘 左京)

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小説「視線」(第15回)

2017年3月10日ニュース

「午後はもっと暑くなりそうだ。家に居ても暑いから、生駒川に行って魚捕りでもしないか」
 勇一が二人の弟を誘った。
「魚捕り?何が捕れるの?」健二が勇一に尋ねた。
「ウグイだ。いっぱい泳いでいるぞ」勇一が答えた。
「お前たち。魚撮りもいいが、事故には気を付けるんだぞ」祖父が心配そうに言った。
「大丈夫だよ。もう何回も行っている場所だから慣れているよ」勇一が言った。
 男が子供の頃には、まだ学校にプールはなかった。同じ学校に通う子供たちは、夏休みになると、水がきれいな生駒川に出掛けて行っては水遊びや魚捕りをして遊んだ。

 午後に入ると一段と暑さが増した。3人は自転車に乗って家を出た。健二は自分の自転車を漕いで、男は勇一の自転車の荷台に乗せてもらい、生駒川に向かった。3人が山麓を流れる生駒川に着くと、他に子供の姿はなかった。夏休みの宿題に追われているのだろうか。お盆前に来た時は大勢の子供たちが水遊びや魚捕りをしていたのだが、今日は3人の他に誰もいない。
 蝉の鳴き声が周囲の山肌に当たって木霊している。川面を涼風が渡る。3人はサンダルを脱いで素足を川の中に入れた。川の水が火照った体を冷まし、汗を止めた。
 川岸から水面を覗くとウグイが群れをなして泳いでいる。水中眼鏡とシュノーケルを付けた勇一は、手にヤスを持って下流部に向かった。男と健二は川岸で、たも網を持ってウグイの群れを追った。
 二人は向こう岸に行くために、川面から顔を出した岩を渡った。
「わー!」どぼーん、と川面を叩く音がした。
 男が濡れた岩に足を滑らせて川に転落した。深みに落ち込んだ男の体が流されていった。
「兄ちゃん、助けて!」
 男の悲鳴と助けを求める声を聞いた健二であったが、急な流れに身を捕られた男の体を捉えることができなかった。
「雄一兄ちゃん、助けて!徹が川に落ちてそっちに流れていくよ!」
 健二が大声を上げて勇一に助け求めた。男の体が流れ下る先で川に潜って魚を捕っていた勇一が水中から体を出して、流れてきた男の体をやっとの思いで掴んだ。男の体を掴んだ勇一は川岸で待機していた健二に徹の体を預けたが、今度は勇一の体が急流に押し流され、やがて川面から姿を消した。
(勇一兄さん、ほんとうにすまなかったね)
 勇一の命と引き換えでもらった男の命。男は自責の念に駆られながら人生を送ってきた。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第14回)

2017年3月8日ニュース

 男は写真に納まっている子供の頃の自分と、洗面所で毎朝、見る今の自分とを見比べて、50年も経つとこんなにも顔形が変わってしまうのかと思った。薄くなった頭髪、広くなった額に引かれた4本の横皺、垂れ下がた目尻、削げ落ちた頬、張りと艶をなくした肌。男の顔には60年の人生が刻まれている。次兄の健二の顔にも62年の人生が刻み込まれている。しかし長兄の勇一の顔には14年の人生しか刻まれていない。
(不思議だ)男はつぶやいた。写真に写っている子供の頃の自分と次兄の顔は色あせてしまったが、長兄の顔は退色することもなく今もつやつやととした肌と輝きを保っている。

 男の視線は50年前の郷里に向かった。お盆が終わって夏休みも残りわずかとなったある日。朝から夏の強い日差しが地面を照り付けていた。家の中の風通しを良くしようと縁側の戸を開けっ放しにするが、部屋の中に貯まった蒸し暑い空気は外に出て行かない。
 ジー、ジー、ジー、とアブラゼミの鳴き声が家の中に入って来て、蒸し暑さを余計に感じさせる。
 カラン、カラン、カラン、と鉦を鳴らす音が遠くから聞こえてきた。徐々に大きくなってきた鉦の音がアブラゼミの鳴き声を打ち消し、家の中に涼感を運んできた。
「じいちゃん!あの鉦の音。もしかして、氷菓子を売りに来たんじゃない?」
 茶の間でテレビを付けながら、うたた寝をしていた男が祖父に言った。
「お前たち、好きなものを買ってきな」
 祖父は財布から取り出した小銭を勇一に渡した。勇一、健二、男の3人は玄関前の道路に出て、氷菓子を売りに来た麦わら帽子のおじさんを待った。
 カラン、カラン、カラン
 発泡スチロール製のクーラーボックスを荷台に積んで自転車を引く麦わら帽子のおじさんの姿が3人の視界に入った。自転車が家の前で止まった。おじさんがクーラーボックスの蓋を開けると、棒の付いた箱型のアイス、チューブやボールの形になったアイスなど、色も形も様々な氷菓子が入っていた。男と健二がチューブ型とボール型の氷菓子をそれぞれ選んだ。勇一は棒の付いた箱型のアイスを2本選んだ。1本は祖父の分だ。勇一が代金を払うと、3人は家に入って火照った体を氷菓子で冷ました。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第13回)

2017年3月6日ニュース

 米の収穫が終わると秋祭りが行われる。秋祭りは春から始まった農耕を助け稲田を守ってくれた田の神に収穫を感謝する祭りだ。男の実家が氏子になっている菅原神社の秋祭りは2日かけて行われる。普段は神社に鎮座する御神体(氏神)が神輿に移されて、その神輿が村中を巡行する。初日は御神体を神輿に移す「宮出し」が行われ、二日目は巡行を終えた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。中学生の勇一は大人の神輿を担ぎ、小学生の男と次兄の健二は子供の神輿を担いだ。

 祭り2日目。昨日に続く穏やかな秋晴れのなか、神社の境内には男衆の担ぐ神輿、女衆が担ぐ神輿、それに子供たちが担ぐ神輿が台座に据えられ並んでいる。一升瓶に入った日本酒が白い猪口に注がれ、神輿の担ぎ手に振る舞われた。男衆のなかには顔を赤らめた若者もいる。祭り用の白装束を身にまとった男と長兄の勇一、次兄の健二も神輿の前で待機している。観衆のなかに姉の佳子と妹の裕美の姿もあった。
「お兄ちゃんたち、かっこいいわよ!」裕美が声を掛けた。勇一たち3兄弟が、妹の声援に手を上げて応えた。
 神輿が出発する前に、神楽舞の一行が神社にやって来て獅子舞と剣舞を披露した。獅子頭に頭を食まれ泣き出した幼子もいた。
「よし、出発だ」
 神楽舞が終わったのを確認した先導役が号令を掛けた。担ぎ手の肩に載せられた神輿がゆっくりと参道を通り、山門をくぐって通りに出た。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ

 役場前の広場に集まった大勢の観衆を前にして、男衆の神輿が押し合いを演じた。広場には佳子と裕美が先回りをして、男たちの神輿が来るのを待っていた。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 熱くなった男衆の体から湯気が上がる。押し合いを終えた男衆の神輿は、一路、神社に向かった。御神体を乗せた男衆の神輿が巡行を終えて神社に戻って来た。境内には佳子と裕美の姿もあった。これから秋祭りのクライマックスシーンが始まる。巡行を終えて帰ってきた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。神輿が神社の境内に入るや、神輿の帰りを待っていた男衆と女衆はスクラムを組み、御神体に悪霊が紛れ込まないようにと、結界を作った。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 掛け声を上げて男衆と女衆は押し合った。御神体の宮入りが終了したことを示す神楽の奉納舞が行われ祭りは終わった。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第12回)

2017年3月4日ニュース

 男は食事の時間以外は2階の自室に籠って、孫の雄太と工作する乗り物の試作品作りに没頭した。男の器用な手さばきで机の上に広げた化粧箱がカッターで切りとられ、乗り物のパーツが次から次へと出来上がる。男が時折、疲れた首を持ち上げると、写真立てに入った1枚の写真と向き合う。色あせた写真には、台座に据えられた神輿の前に立っている法被姿の3人の子供が写っている。男と二人の兄だ。真ん中に立っているのが長兄の勇一、右側には次兄の健二、左側には男が立っている。子供の頃、男の郷里で毎年行われていた秋祭りの写真だ。
「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今も めぐりて 忘れがたき 故郷……」
 男は童謡「ふるさと」を口ずさんだ。脳裏に子供の頃に過ごした郷里の情景が蘇った。
 家の前に広がる田んぼの絨毯、緑や黄色の中に点在する農村集落、背後に見える山並み。男が子供の頃に過ごした故郷には四季折々の色と匂いと音があった。
 春の緑色、夏の青色、秋の黄金色、冬の白と黒。
 春は青葉の匂い、夏は草いきれ、秋は稲わらの匂い、冬は鼻を刺す冷たい空気の匂い。
 ド、ド、ド ダ、ダ、ダ 春はたんぼを耕す耕運機の音。
 ジー、ジー、ジー 夏は蝉の声。
 ザク、ザク、ザク 秋は鎌で稲穂を刈り取る音。
 ヒュー、ヒュー、ヒュー 冬は北風の音。

 男は東北地方の寒村にある農家に生まれた。戦時中は小作農家だった男の家は、終戦後、GHQの指令で行われた農地改革によって、小作地の払い下げを受けて自作農家となった。この農地改革は、GHQが行った日本の民主化政策の一つで、地主制度の解体を目的に、大地主と小作人との経済的な支配従属の関係を解消させるために行われた。不在地主の全所有地と、在村地主の貸付地のうち都道府県で平均1町歩、北海道で4町歩を超える分を、政府が強制的に地主から買い上げて小作人に極めて安い価格で売り渡した。また政府は終戦直後の食糧不足を克服するため、「食料増産・自給政策」を推進した。自作農家の米作りを奨励する目的で、政府から打ち出された食糧管理制度に守られて、男の家では農地改革で払い下げられた2町歩の自作地を少しずつ増やして3町歩ほどに広げた。
 男が子供の頃の農業は機械化が始まったばかりで、人力がまだ主流の農作業は多くの人手と手間のかかる重労働だった。当時の米農家が抱えていた慢性的な労働力不足を補ったのが子供だ。食べる物に困らない農家には子供が自然と多くなる。男には自分を含めて5人の兄弟姉妹がいた。2人の兄、それと姉と妹だ。

 田んぼ仕事は雪消え間もなく行われる「田起こし」から始まる。田起こしは雪の重みで硬く締まった田んぼの土を掘り起こし砕いて柔らかくする作業だ。次に田んぼに水を引き入れ更に細かく土を砕いて柔らかくし、最後に平らにならす「代掻き」が行われる。「田起こし」と「代掻き」は耕運機を使って行われた。耕運機がまだ普及していなかった頃は馬に鋤を引かせていたようだ。微かに残っている幼少期の記憶を辿ると農作業場の隣に厩があった。米作りは種蒔きから始まる。発芽させた種籾を苗代田に蒔いて苗を育てる。程よく伸びた苗を抜き取り田んぼに植える「田植え」が始まる。夏場は田んぼの草取りに追われる。

 お盆過ぎ頃から稲の開花が始まり結実期を迎える。九月に入ると黄金色に色づいた田んぼにはずっしりと重たくなった稲穂が頭を垂れながら、風になびいている。間もなく「稲刈り」が始まる。しかしこの時期は、農家にとってはやっかいな台風シーズンでもある。鎌で刈り取った稲は稲架木に掛けて天日干しにする。乾燥させた稲穂から籾をはずす「脱穀」、籾から籾殻を除いて玄米にする「籾摺り」を経て出荷用の玄米が出来上がる。玄米は60キロ入りの麻袋に詰められて農協に出荷される。田起こしから始まった一連の農作業は袋詰めした玄米を出荷した段階で終わる。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第11回)

2017年3月2日ニュース

 妻の几帳面な性格はごみの出し方にも表れている。男の住む町ではごみは9種類に分別収集されている。「燃やすごみ」は有料化されている。一方、無料の「資源ごみ」の方は6つに分別してゴミステーションに出さなければならない。妻は資源ごみの分別には特に気を使っている。先日も、プラスチック性の食品容器を洗わないで出している家があるとか、古新聞と一緒に出すことになっている段ボールを別の日に出していたとか、食事をしている時に、妻が男にぼやいたことがあった。
「昨日、プラスチック容器の収集日だったけど、また、洗わないでごみステーションに出している家があったわ。きっと辻本さんよ。カップ麺の食べ残しが入っていたらしく、カラスが袋を突っついて食べていたわよ。袋からはみ出たごみが辺りに散らかっていて、片づけるのに大変だったわ。あなた、今度、辻本さんに会ったら注意してよ」妻が男に向かって言った。今月、男の家がゴミステーションの管理当番になっている。
「どうして、辻本さんが出したごみだって分かるんだね。出した人の名前がごみ袋に書いてあるわけでもないし……」
「一人暮らしの辻本さんが家で食事を作っているようには思えないわ。この前、カップ麺がたくさん入った買い物袋を持って家に入るのを見たのよ」
「仮に辻本さんが容器を洗わないで出していたとしても、出している現場を押さえないとだめだよ。今度、見つけたら注意しておくよ」
「そうだわ。今度からプラスチック容器の回収日には、家のごみはあなたから出してもらうわ。辻本さんがルール違反をしている現場を押さえられるかも知れないわ」
「分かりました」
 男は不承不承、ごみ出しを引き受けた。余計なことを言わなければよかったと、男は後悔した。

 家の中、特に1階で発生するごみを分別する権限は妻にある。その妻の権限を侵すかのように、家の中で資源ごみをせっせと集めている男は、「ミニマリスト」を自認する妻の冷ややかな視線を背中に感じることがある。持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす生活にこだわる妻は、突然始まった夫の蒐集癖には辟易しているのではないかと、男は思った。妻の家事ラインが敷かれている1階には余計な物や余分な物は一切ない。見つかれば直ぐに妻の手によってごみとして家の外に排出されてしまうからだ。
 「燃やすごみ」に分別されるか「資源ごみ」に分別されるかで、ごみの運命は大きく変わる。人間の生活に「有用な物」として生産され供給された製品が消費された後は「不用なごみ」に変わる。「燃やすごみ」に分別されると、焼却場で燃やされて灰になって人生を終える。一方、「資源ごみ」の方は回収され再利用されることによって第2の人生が始まる。高度経済成長と消費人口の増加が大量生産、大量消費、大量廃棄をもたらした。大量廃棄が環境に負荷を与えているとの反省から、近年、資源のリサイクルが進んでいる。容器包装、家電、自動車、建設廃材はリサイクルが義務付けられている。古新聞は再生紙や段ボールに再生される。ペットボトルはペレット状に砕かれて化学繊維に生まれ変わる。男が家の中で集めている「資源ごみ」は、孫の雄太と作る乗り物に生まれ変わるための材料だ。また、回収した「資源ごみ」は家事ラインが敷かれていない男の自室に保管されている。この場所はミニマリストの権限が及ばない場所だ。それとも、ミニマリストが向ける矛先は男が自室にストックしている「資源ごみ」ではなく「男自身」なのだろうか。妻から見て、「男の体」は「資源ごみ」なのか「燃やすごみ」なのか?男の脳裏に「熟年離婚」という言葉が浮かんだ。長年連れ添ってきた妻から、ある日突然、三行半を突き付けられるのではないかと、男は疑心暗鬼になった。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第10回)

2017年2月28日ニュース

 男が捨てたいほどに沢山ある時間、妻にあげたいほどに余分にある時間が、ようやく埋まった。雄太と一緒に工作をして楽しむ時間や妻が春奈と作る昼ご飯の食材の一つとしてミニトマトを栽培する時間に充てることにした。男にとって「仮の居場所」でしかなかった「我が家」が、「本来の居場所」へと変わってきた。男にとって「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」を満たす場でしかなかった「我が家」が、「自我の欲求」や「自己実現欲求」も満たしてくれそうな場所に変わってきた。

 男はまず、ミニトマトの栽培から始めた。玄関前の一角にプランターを置いて、そのプランターにミニトマトの苗を植えることにした。男の家は南向きに建っているため、玄関前は日当たりが良好な場所だ。男は近くのホームセンターでプランター2鉢とミニトマトの苗4本を買って来た。そのほかにプランターに入れる土や肥料、スコップやじょうろなど家庭菜園に必要な道具も買い揃えた。男は、早速、歩道と接した玄関前の空いたスペースにプランターを置いて、土を入れミニトマトの苗を植えた。ミニトマトの栽培管理が男の日課になった。

 次は、孫の雄太と乗り物の工作をするための下準備だ。腕に覚えのある男は、車の生産現場で鍛え上げた腕を使って世界で1つしかないオリジナルな乗り物を作ってやろうと考えた。加工する材料は鉄ではなくて紙だ。紙であれば子供でも簡単に加工ができるし怪我の心配もない。男は雄太が家に来る次の土曜日までに、材料を調達し試作品を作っておくことにした。雄太に試作品を見せながら一緒に同じ乗り物を制作する、という段取りをつけた。以来、雄太が家に来る日まで、乗り物の試作品を作っておくことが男の日課となった。

 工作に使う材料は、できるだけ家にある不用品やごみとして出すものから調達することにした。乗り物のボディーにする部分は厚めの紙が良い。家にある菓子折り箱や化粧箱、段ボール箱を集めては自室の押し入れにストックしておくことにした。また色の付いた紙や模様の施された包装紙も何かに使える。ペットボトルなどのプラスチック性の容器も使えるかもしれないので蓋とボディーに分けて保管しておく。「捨てればごみ、生かせば資源」と考え、家中にある不用品の収集を始めた。2階にある男の自室は工房兼ストックヤードになった。
「あなた。そのごみ、どうするの?」男が台所の一角に置いてある紙袋から、折り畳まれた化粧箱を抜き取ろうとしていたら、妻に見つかった。
「雄太と工作をする材料に使いたいんだ」男が答えた。
「そんなのが、工作の材料になるの?」
「白くて厚めのこの紙は、工作に最適だよ」
「明日のごみ出し日に合わせて取って置いたものよ。持って行ってもいいけど。散らかさないでよ」
「分かったよ」男は抜き取った化粧箱を持って、足早に自室に逃げ込んだ。
「ゼリーの入ったこの容器、もらっていいかな」朝飯を食べていた男が顔を上げて妻に言った。
「何するの?これも工作の材料に使うの?」妻が怪訝な顔で言った。
「この容器を使えば紙で作れないパーツを作れるんだ。大丈夫、散らかさないから。それとラップの芯ももらえる?」男は使用済みの食品包装用のラップフィルムの芯を見つけて言った。
「いいけど。ちらかさないでよ」妻が不機嫌そうな顔つきで言った。
 (作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第9回)

2017年2月26日ニュース

 時計の針が午前11時を回った。
「今日のお昼はピザにしようか。春奈、手伝ってくれる?」妻が言った。
「おばあちゃん。ピザを作れるの?」
「もちろんよ。この前、料理教室で習ったのよ」
「お家でも、お母さんが時々、ピザを作ってくれるよ。春奈も手伝う!」
「じゃ、一緒に作ろうか」
「うん」
 妻が冷蔵庫を開けて材料を取り出した。
「ああ、しまった。ミニトマトを買うのを忘れてたわ。あなたお願い。ミニトマトを買ってきて」
 買い物を頼まれた男は自転車を漕いで近くのスーパーに向かった。スーパーに行く途中で、ホームセンターの店先に並んだミニトマトのプランターを見つけた。赤い実が幾つか付いている。
(ミニトマトってプランターでも作れるのか。家でも作ってみるか。簡単そうだし。それにいつでも食べられる)と男は思った。

 午後になって、妻は春奈と台所でお菓子作りを始めた。今日はチーズケーキを作るらしい。二人はパイ生地作りから始めた。男と雄太は2階にある男の部屋でアルバムを広げて写真を眺めている。男が勤めていた工場で製造していた車の写真集だ。完成車両だけでなく組み立て中の写真もある。生産ラインに立った作業服姿の数人の男たちが、車の周りを取り囲んで作業をしている。雄太は、手にスパナを持った作業服姿の男を指差して言った。
「この人って、もしかしておじいちゃん?」
「そうだよ。おじいちゃんがまだ二十代の頃の写真だ」
「この時、工場ではどんな車を作っていたの?」
「さっき、雄太にあげた赤いスポーツカーだよ」
 男が工場に就職した頃に生産していた車種はスポーツカーが中心だった。その後、大衆車にシフトし、現在は主に高級車を生産している。男が勤めた工場では、団塊世代のニーズに合わせるように生産する車種を変えていった。男もスポーツカー、大衆車と買い替えていったが、所有している車は大衆車のままだ。
「おじいちゃん。今でもこうやって車を作っているんだ」
 車が完成するまでの生産ラインの写真を見ながら、雄太が言った。
「おじいちゃんが工場に入った頃は、何人かでチームを編成して、車を組み立てていたが、今はロボットが組み立ているんだ」
「人間じゃなくてロボットが車を作っているの?」
「ほら、この写真を見てごらん。人間の腕のような形をしたアームが車体のボディーに鋲を打ち込んでいる写真だ」
「ほんとうだ」雄太の目が輝いた。
「全部の工程じゃないけど、鋲を打ち込むとか、ねじを巻くとか、塗装といった単純な作業は人間よりも機械の方が速く正確に行うことができるので、ロボットに任せているのさ。人間はロボットが正しく動くように制御しているんだ」
「後姿しか見えないけれど、この人って、おじいちゃん?」
「そうだよ。制御盤のメーター見ながら、ロボットが正常に動いているかどうかを確認しているんだ」
「すごい!こんな風にして、大勢の人やロボットが作業を分担して車が出来上がるんだね」
「そうだとも。1台の車を完成させるまでは時間と手間が掛かるけど、その分、完成した時の喜びは大きいぞ」
「車を作るって楽しそうだね」
「そうだとも雄太。今度、おじいちゃんの家に来たら、一緒に乗り物を作ろうか。楽しいぞ」
「うん、分かった。ところで、おじちゃん。どうやって車を作るの?」
「本物の車みたいに鉄板を切って作るわけにはいかないので、紙を使って乗り物を作るんだ。出来上がった乗り物のボディーに、絵の具を使って好きな模様や色を塗ることができるぞ」
「わーい。おじいちゃん楽しみにしているよ」雄太は満面に笑みを浮かべた。
(作:橘 左京)

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小説「視線」(第8回)

2017年2月24日ニュース

 第2土曜日の朝。男は1階の居間で新聞を広げて読んでいる。妻は台所で食器を洗っている。玄関前に1台の車が止まった。どうやら上の娘が孫たちを預けに来たようだ。
 ガラ―、と玄関を開ける音がした後、
「おはようございます!」と孫たちの甲高い声が家中に響いた。
「雄太、春奈、おはよう」妻が玄関に出て二人の孫を出迎えた。
「おはよう、お母さん。雄太と春奈をお願いね」上の娘が言った。
「分かったわよ。気を付けて行ってらっしゃい」妻が二人の孫を預かって娘を送り出した。
「おばあちゃんは、台所の後片付けがまだ残っているから、終わるまで、おじいちゃんの居る部屋で待っててね」
「はーい」妻は台所に戻り、二人の孫は居間に入った。
「おじいちゃん、おはよう」雄太と春奈が居間で新聞を読んでいる男に挨拶をした。
「おはよう、雄太に春奈。二人とも朝ご飯は食べたのか」男が二人の孫に尋ねた。
「食べたよ。おじいちゃんは食べたの?」雄太が男に聞いた。
「今、食べたところだよ。これから子供向けの番組が始まるぞ」と、男は部屋の柱時計が間もなく8時半を告げるのを確認して、テレビのリモコンスイッチを入れた。学校の完全週休2日制が実施されてからは、土曜日の午前中に子供向けのテレビ番組が多くなった。
 最初は機関車をキャラクターにしたアニメーションドラマだ。雄太と春奈は男の家に来ると子供向けの番組を見て過ごす。しばらくして台所の後片付けと洗濯を終えた妻が居間にやってきた。孫たちが家に来る日は、1階に敷かれた家事ラインは炊事と洗濯だけになる。

 妻は昨日、ショッピングセンターで買って来た菓子袋を開けて、袋の中から小袋を取り出して二人に配った。小袋を受け取った春菜が、
「おばあちゃん、このお菓子、この前テレビで見たよ。私、前からこのお菓子を食べたかったの」と、妻に向かって言った。
「そうなの。よかったわ。食べてごらん」妻が春奈に言った。
 菓子袋のパッケージには人気キャラクターが印刷されていた。また、小袋の中にも同じキャラクターの形をしたクッキーが入っていた。二人はテレビを見ながら食べ始めた。男も昨日、ショッピングセンターで買ったミニカーの箱を2階から持ってきて、箱から赤いスポーツカーを取り出した。
「雄太は乗り物の模型を集めているんだって。おばちゃんから聞いたぞ。これは、おじいちゃんが若い頃に、工場で作っていたスポーツカーの模型だよ。雄太にあげるよ」
「もらっていいの。ありがとう。このスポーツカー、おじいちゃんが作っていたの。すごいな!」
「そうだよ。おじいちゃんが作ったスポーツカーにおばあちゃんを乗せてドライブに出掛けたものだよ」と男が言うと、
「思い出したわ。この赤い車、あなたと付き合っていた頃に乗っていた車じゃないの」妻が合いの手を入れた。
「それって、デートってこと」春奈が言った。
「春奈はデートって言葉を知っているの。おませな子だね」妻が笑って言った。
「雄太、完成品の乗り物を集めるのもいいが、作る方がもっと楽しいぞ。おじいちゃんが若い頃は、プラモデルといって、プラスチックの部品を組み立てて乗り物を作ったんだ」
「僕でも作れるかな」
「大丈夫だよ。おじいちゃんが1から教えてあげるよ。今度、家に来た時に、おじいちゃんと一緒に乗り物を作ろう」
「ほんとに?楽しみだな。おじいちゃん、約束だよ」
「おじいちゃん、私のはないの?」
 妻の隣に座って二人の会話を聞いていた春奈が男に向かって言った。
「そうそう、春奈にもプレゼントがあるんだ」
 男はまた2階に上がって人形模型の入った箱を持ってきて春奈に渡した。
「わーい!これ前から欲しかったの」
 男が春奈に渡した模型は人気キャラクターのフィギュアだ。昨日、雄太のミニカーを買った後、春奈にも同じように模型をあげないと不公平になると考えた男は、いったん出たおもちゃ売り場に戻って買ったものだった。
(作:橘 左京)

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