2026年11月
« 10月    
月 火 水 木 金 土 日
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

ブログ

小説「視線」(第20回)

2017年3月20日ニュース

 コンビニ強盗があった数日後、男の家に刑事が尋ねてきた。
 ピンポーン 玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、どちら様ですか」居間でテレビを見ていた妻が玄関に出た。
「ごめんください。警察の者ですが」
「はい。今、玄関を開けますから」
 妻が玄関を開けると2人の刑事が入ってきた。刑事たちは警察手帳を見せて言った。
「先日、この先にあるコンビニで起きた強盗事件について、お話を伺いに来ました」
「強盗事件?今、主人を呼びます。あなた、ちょっと来て!刑事さんよ」
 妻が2階にいる男を呼んだ。妻からの呼び出しを受けて、男は1階に降りて来た。
「刑事さんよ。この前、近所のコンビニであった強盗事件について、聞きたいことがあるんですって」
 妻は夫にその場を引き継いで、居間に戻った。
「事件については、既にご存知ですよね」刑事が尋ねた。
「はい。この町に住んで30年近くになりますが、まさかコンビニ強盗が起きるなんて、思ってもみませんでした」と男は答え、話を続けた。
「夜中の3時頃だったと思いますが、救急車とパトカーのサイレンの音に気づいて目が覚めました。サイレンの音がだんだんと大きくなってきたので、こっちの方角に向かっているのかな思っていたら、近所で突然止まったんで、何かあったんだなと思いました。布団から起き上がって、外を見たら、コンビニの駐車場に救急車とパトカーの赤色灯が点滅していました。その後、包帯を巻いた店員が救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んでいくのが見えました。朝のニュースを見て、事件の詳細を知りました」男は答えた。
「救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえる前に、急発進する車の音は聞きましたか?」
「いいえ、聞いていません。救急車とパトカーが鳴らすサイレンの音で目が覚めたので、その前のことは眠っていたので分かりません。でも、刑事さんが今言った、急発進するような車があれば、眠っていても分かったと思います。もっとも、この時期、週末の深夜になると暴走族のバイクの音で嫌でも目が覚めてしまいますが……。妻にも聞いてみましょう」男は妻を呼んだ。
「今、刑事さんから聞かれたんだけど。救急車とパトカーのサイレンの音がする前に、車が急発進するような音を聞かなかった?」
 男が妻に尋ねた。
「救急車とパトカーの音がだんだんと大きくなってきて、近所で止まったことしか覚えていないわ。週末の深夜を除けば、ここは静かな住宅街です。もし急発進する車があれば、寝ていても気づいたと思います」妻が刑事に向かって言った。
「深夜のコンビニに買い物に来る車もあると思いますが、買い物客の車の音は聞いたことがありますか?」刑事が尋ねた。
「国道のバイパス沿いにあるコンビニになら、深夜でも車で買い物に来る客はいるとは思いますが、ここのコンビニを利用している人の多くは、近所の人たちです。買物に行く場合でも、歩いて行くか自転車を漕いで行くかのどっちかだと思います」男が答えた。
「店の店員さんは、犯人が乗って逃げた車は見ていないんですか?」今度は男が刑事に尋ねた。
「犯人が店を立ち去った後、110番通報をしていたので、犯人の車は見ていないし、車の音も聞いていないそうです」刑事は答えた。
「防犯カメラに犯人の車は写っていなかったんですか?」男が刑事に尋ねた。
「コンビニに向けて設置したはずの防犯カメラが、なぜかお宅の玄関の方向を向いていたんです」
「ええ、防犯カメラがうちの玄関に向いていたって!?」男が驚いた表情で言った。
「防犯カメラを設置した支柱に何かがぶつかったらしくて、少し傾いていました。事件当日の防犯カメラに保存されていた記録映像を見たら、コンビニではなくて、お宅の家が映っていたんです」
 刑事は答えた。
「ええ、家を映した映像ですって!プライバシーが覗き見られているようで嫌だわ。窓越しから家の中が丸見えだわ!」妻が言った。
「ご心配なく。今は、コンビニの方角に防犯カメラは向いていますし、お宅を記録した映像は既に消去しました」刑事は答えた。
「防犯カメラに記録されていた映像は、何日間、保存されているんですか?」男が刑事に尋ねた。
「最新の防犯カメラのなかには、長期間保存できるものもあるようですが、こちらの防犯カメラは1週間です。記録されて1週間経つと新しい映像に更新されます」刑事は答えた。
「防犯カメラは常時、モニターで見られる状態になっているんですか」男が刑事に尋ねた。
「こちらの防犯カメラは商店街組合が設置したもので、カメラと専用回線で繋がれた組合事務所のモニターに写し出すことは可能ですが、モニターは1つしかなく、普段は事務所前に設置したカメラの映像を映していたそうです。ですから、こちらの家を映していたカメラには映像は記録されていましたが、組合の人に見られていたということはなかったようです」刑事が答えた。
「ああ、良かったわ。組合の人に家の中を覗かれていたのかと思いました」妻がほっとした表情で言った。
「モニターに家が映し出されていれば、カメラの向きがおかしいと、もっと早く気づいたかも知れませんね」男が言った。
「そうですね」と言って、年配の刑事が若い刑事にそっと目配せした。
「いろいろとお聞かせいただき、ありがとうございました。また、何か、事件について思い出したことがあれば、こちらにお電話ください」若い刑事が男に名刺を差し出して、刑事たちは帰って行った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第19回)

2017年3月18日ニュース

 ピーポー、ピーポー ピーポー
 ウーウー、ウーウ、ウーウー
 明け暗れのなか、2階の自室で寝ていた男は救急車とパトカーのサイレンで目を覚ました。1階で寝ていた妻もけたたましいサイレンの音に驚いて、2階に上がってきた。男は部屋のカーテンを開けて外を覗いていた。
「今、サイレンの音がしたけど。事故か何か、あったのかしら?」男の部屋に入って来た妻が言った。
「近くのコンビニで事件が起きたようだ」男が答えた。妻も窓から外を覗いた。
 男の家の並びにあるコンビニの駐車場には規制線が張られ、赤色灯を点滅したパトカーと救急車が見えた。しばらくして、腕と手に包帯を巻かれた店員が救急隊員に付き添われて救急車に乗り込んだ。
 ピーポー、ピーポー ピーポー
 怪我人を乗せた救急車が駐車場から出ていった。パトカーは赤色灯を付けたまま駐車場に止まっている。現場検証が続いているようだ。眠られないまま朝を迎えた男は布団から起き上がって、部屋のテレビを付けてチャンネルをニュース番組に合わせた。男は、朝起きるとテレビのニュース番組を見るのが日課になっていた。
「未明のコンビニに強盗 売上金50万円が奪われる」というテロップがテレビ画面に表示され、
「今日の未明、午前三時頃。茨城県陽光市にあるコンビニエンス・ストア『エニータイム』に、マスクをした40代くらいの男が客のいない店に押し入り、店員にカッターナイフを突き付けたうえ、店にあった売上金約50万円を奪って逃走しました。警察では男の行方を追っていますが、まだ手掛かりはつかめていません。カッターナイフで切り付けられた店員の男性が手と腕に怪我をしました」と、アナウンサーが伝えた。
 コンビニ強盗のニュースは何度かテレビで見たことがあるが、まさか自分の住んでいる町でこんな凶悪な事件が起きるとは思ってもみなかった。

「今朝のニュースで、未明に近所のコンビニで起きた事件を放送していたよ。何でも40代くらいの男が、カッターナイフで店員を脅して、店の売上金を奪って逃走したそうだ」
 男は朝飯の席で妻に言った。
「マスクをした40代くらいの男?」妻が男に尋ねた。
「そう。ニュースでは白いマスクをした男だと言っていたね」
「外国で起きたコンビニ強盗の映像をテレビで見たことがあるけど、怖かったわ。目出し帽をかぶった男が店員に拳銃を向けて、店員がレジから取り出した現金入りの袋を持ち去った映像よ。この町に住んで30年近くになるけど、身近な所でこんな怖い事件が起きたなんて、信じられないわ!」
 妻は動揺した様子で言った。
「外国の事件と違って、今回のコンビニ強盗の凶器はカッターナイフだったけどもね。コンビニ強盗なんて余所事かと思っていたけど、君が言うように、自分たちの住んでいるこの町で起きたなんて、驚いたよ。物騒な世の中になったもんだね」
「そうね。昔は銀行を狙った強盗事件が時々あったわ。ライフル銃などの凶器を持った犯人が行員やお客を人質にして立てこもった事件だったわね。終日、テレビが事件現場を実況中継してたのを覚えているわ」
「そうだね。確かに昔は銀行を狙った強盗事件が多かったようだけど、金融機関の防犯対策が進んだことや警察の見回りが強化されたことで、昔と比べれば、件数は少なくなったんじゃないのかな。その代わりに、24時間営業のコンビニが狙われるケースが増えたような気がするよ。それに、今回の事件のように目撃者や客の少ない深夜から未明にかけての犯行が多いみたいだね」

「コンビニ強盗じゃないけど、私と同じ料理教室に通っている鈴木さんの娘さんが、ひったくりに遭ったそうよ。娘さんが夜遅く歩いて帰宅した時に、自転車に乗った若い男が後ろから近づいてきて、娘さんのハンドバックを奪って逃げたんですって」
「その娘さんに怪我はなかったの?」
「バッグを奪われた時、転倒して膝に擦り傷を負ったそうよ」
「女性が夜道を一人で歩く時には、護身用に防犯ブザーなどの道具を持っていた方がいいね」
 男はこの住宅団地に移り住んで30年近くになった。住宅団地のある一帯は、戦時中、広大な畑作地帯であった。戦後になって工場団地が造成され、自動車など輸出型製造業の工場がこの団地に立地した。男が勤めていた工場もこの団地の一角にある。地方出身の若者が「金の卵」となって、これらの工場に就職した。男もその一人だった。会社は地方から出てきた若者に住まいを提供するために、工場団地の周辺に造成された住宅団地に社宅用の集合住宅を建設した。当時の工場は3交代制勤務で24時間稼働していたことから、工場と社宅の間をマイクロバスによるピストン輸送で従業員を運んだ。男も独身の頃はマイクロバスに乗って社宅と工場を往復した。

 その後、一戸建て用の住宅団地が造成され、マイホームを求める大勢の子育て世代がこの団地に土地を買い求めた。男が家を建てた頃は、団地に建っている戸建ての住宅はまばらであったが、その後、最初に分譲に出された区画の全てが埋まったことから、宅地開発業者は周囲に残っている畑を開発して、第2次の分譲団地として造成し売りに出した。
 こうして男の住む住宅団地は徐々に拡張し、今や人口3万人余りの人々が暮らす市街地に成長した。子供の数が急激に増えたことから、保育園や幼稚園、小中学校が新設され、市役所の出張所、交番、消防署などの官公署の公共施設も新たに建設された。市街地の拡大に伴い、スーパーマーケットやコンビニ、ガソリンスタンドといったといった生活関連の店舗もできた。パチンコやカラオケルーム、居酒屋などの娯楽施設も人口の増加に合わせて建設された。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第18回)

2017年3月16日ニュース

 ある夏の朝。朝飯の席で妻が男に言った。
「昨日の夜、バイクや車の音がうるさくて眠れなかったわ。それに何かにぶつかったような音もしたわ。あなた、眠れた?」
「いや、目が覚めたよ。深夜にあんなに大きな音を出して車を走らせていれば、誰だって目を覚ましてしまうさ。毎年、この時期の週末になると暴走族が騒いでいるね。それに、暴走族の車を追跡するパトカーのサイレンの音にも参ったよ」
 普段は静かな夜の住宅街だが、毎年、夏になると騒がしくなる。週末の夜、男の住む町から15キロ先にある海岸道路をめがけて暴走族の車両が爆音をたてながら、家の前の道路を通過するからだ。蛇行運転するオートバイや改造車両から出るクラクションの音と違法改造のマフラーから出るエンジン音が、寝静まった住宅街を襲う。続いて、暴走族を取り締まるために追跡してきたパトカーから流れるサイレンが静かな住宅街に響き渡る。男の家の玄関前には暴走族グループが投げ捨てたと思われる空き缶やペットボトルが落ちていることがある。また、ガードレールに接触した際に外れたと思われる車の部品が落ちていることもある。
 月に2回、男の家に来る孫のためにと始めたペーパークラフトと家庭菜園であったが、家庭菜園の方は手間がかかる。畑と違ってプランターに入れた土は水分の蒸発が早いため、朝晩の水やりは欠かせない。ミニトマトの苗は順調に生育し、梅雨に入った頃には茎の背丈が伸びて枝や葉が横に広がってきた。風で倒れないように支柱を立てて支えた。施肥や雑草取りも必要だ。男は日が照り付ける昼間は避けて、朝晩の涼しい時間帯にこれらの作業を行った。子供の頃に経験した辛い農作業に比べれば楽な作業だと男は思った。7月に入ると花芽が出てきた。花芽が出てくれば実ができる。来月には赤い実が収穫できるかもしれない。
 ある朝、いつものように男がミニトマトを植えたプランターに水をやろうと、ジョウロの先をプランターの中に入れたところ、何やら光っているものが見えた。男は光っているものを手に取った。それはプラスチック製の白い板だった。板には金色の枠がはめ込まれている。どうやらICカードのようだ。先ほど光って見えたのはカードに埋め込まれたICチップだった。カードの表面は真っ白で文字などの意匠が施されていない。家の前の玄関先には、時折、空き缶やペットボトルが捨てられていることがある。プランターに吸殻やたばこの空き箱が投げ捨てられたこともあったが、このような異物が捨てられていたのは初めてのことだった。男は手に持った真っ白なICカードを眺め、試作段階のカードではないかと思った。
 このカードにはどんな情報が入っているんだろうか?真っ白なICカードに記録されている情報を見たくなった男は、カードを2階の自室に持っていき、パソコンに繋いだカードリーダーに、拾ったICカードを差し込んでみたが、読み取り不能のメッセージが画面に表示された。やっぱりだめか。男はカードリーダーからICカードを抜き取って、本棚の隅に置いた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

童話「白鳥になった春菜ちゃん」(立花 智 作)

2017年3月15日ニュース

 春菜ちゃんは幼稚園に通う女子です。春菜ちゃんが住んでいる家の近くに瓢箪の形をした大きな池があります。瓢箪池です。毎年、十月になると瓢箪池にたくさんの白鳥がやってきます。瓢箪池の周りには田んぼが広がっています。稲刈りの終わった田んぼには落ち穂がたくさん残っています……
 ⇒続きを読む

【お知らせ】
 童話「白鳥になった春菜ちゃん」は、「ライブラリー」の「文芸」コーナーにアップされました。

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第17回)

2017年3月14日ニュース

 男は話を続けた。
「この前テレビで見た特報番組で自販機荒らしの手口を放送していたよ。昔は、夜間になると無人になる工場や倉庫、それに工事現場などにある自販機が狙われることが多かったそうだ。バールやハンマーを使って、なかには工事現場に置いてある重機を使って、自販機を壊して現金を抜き取っていたそうだ。しかし、人がいなくなる前に、自販機から現金を回収して、電源を切ってしまうことで、被害に遭わなくなったんだ。それに加えてパトカーの見回りが増えたこともあるそうだ」
「じゃ、犯人はどうやって、音も立てずに富田さんの店の自販機から現金を抜き取ったのかしら?」
「番組では自販機に物理的な力を加えずに現金を抜き取る手口が紹介されていたよ。自販機内部の回路をショートさせる方法だ。ニクロム線に繋いだ十円玉をコインの投入口に入れて、十円玉が入りきったら、ニクロム線に単三電池で電流を流す。すると自販機内部の回路がショートし、なかのコインが全て出て来るという仕掛けだ。しかし、こちらの手口も最新式の自販機には通用しないそうだ。富田さんのお店の自販機が最新式のものかどうかは知らないけど、最近の自販機には必ず防犯カメラが設置されているので、カメラに記録されている映像を分析すれば自販機の前で不審な動きをした人物は特定されるよ」
「富田さんの自販機が最新式のものかどうかは、私も知らないけど、盗まれたのは硬貨だけじゃないわ。紙幣も盗まれたのよ」
「そうか。紙幣も盗まれたのか。もしかして、インターネットを使って自販機を誤作動させる手口だったのだろうか?」
「インターネットを使って機械を誤作動させるって、どういうこと?」
「最新型の自販機のなかには、インターネットを介して外部の情報機器とデータのやり取りができる集積回路を内蔵している機種があるらしいんだ。例えば、自販機内の飲み物の在庫情報がインターネット経由でリアルタイムに販売会社に伝えられ、在庫が不足すれば補充される。一方、販売会社からは季節に合わせた飲み物の温度設定の指示がインターネット経由で自販機に伝えられる。これまで人間が行っていた監視を機械が代行できるようになったんだ。自販機の飲み物の補充は、まだ人間の手で行われているけど、いずれ機械が代行する時代が来るかもしれない。また、集積回路を内蔵した自販機は販売管理にも役立っている。何時、どんな飲み物が売れたのかも分かるので、売れ筋の飲み物を、一番多く売れる時期に投入することで、自販機を効率よく稼働させることができる。このように、コンピューター以外の多種多様なモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすることをIoT(アイ・オー・ティー)というんだ。話を元に戻すと、富田さんの自販機荒らしは、インターネット端末を使って自販機の集積回路にドアを開けるように指示を出して、現金を抜き取ったのかもしれないね」
「そんなこと、本当にできるのかしら」
「富田さんの自販機がこの手口でやられたのかどうかは分からないけど、不可能なことじゃないよ。IoT(アイ・オー・ティー)は家電製品だけでなく、自動車にも導入されているんだ」
「車がインターネットで繋がっているってどういうこと?」
「うちの会社、いや、務めていた会社でも、今、IoT(アイ・オー・ティー)を搭載した試作車を作っている段階だ。車に搭載されたセンサーや道路に設置されたカメラなどをインターネットと接続させることで、車同士の情報交換に行える。渋滞などの道路情報のほかに、道路の先の障害物情報や天候情報など、運転に必要な様々な情報がリアルタイムで送られてくるんだ」
「便利な時代になったものね」
「モノ同士がインターネットを介して情報交換できることで、確かに生活が便利になるけど、間違った情報が伝えられるとか、個人情報が流出するとか、セキュリティの面ではまだ、課題が残っているけどね」
「IoT(アイ・オー・ティー)が悪用されて、富田さんの自販機がやられたってこと?」
「断定はできないが、そういうことも考えられるということだよ」
 自販機荒らしは未解決なまま時が経過していった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第16回)

2017年3月12日ニュース

 男が工場に務めていた頃は、妻や二人の娘に仕事の話をしても会話が成立しないことを、男は承知していた。娘二人がまだ家にいた頃、4人で囲む朝と夜の食卓の席には、男と妻が向かい合わせで座り、妻の隣には上の娘が、男の横には下の娘が座っている。「女三人寄れば姦しい」その後の時間を気にすることのない夕食時は、女同士の会話は賑やかだ。話題はその日の出来事や食べ物、ファッション、芸能界と、3人の会話は途切れることなく続く。男はいつも一人蚊帳の外に置かれる。もっとも男がこのような話題に全く関心がないことを、女たちは知っている。男の方も、女たちの会話が家の前を往来する車の音のように、左の耳から入って右の耳から抜けていく雑音でしかない。男は黙って手酌で晩酌し、食卓に並べられた料理を口に入れる。

 妻が昼に見たテレビのワイドショー番組を持ち出すと、娘たちは「分かる、分かる。そうよ、そうよ」と言って、妻が提供した話題に、有る事無い事を付け加えて話を盛り上げる。週刊誌の記事のように誇張気味に伝えるワイドショーの話が、女3人によって更に増幅され、夜のワイドショー番組として、夕食の席で放映される。ある時、妻がセクシャルハラスメントを話のねたを持ち出してきた。ある大手企業の男性上司が部下の女性に性的な言動を繰り返していたという話だが、その話が娘たちの勤める会社の男性上司に対する悪口へと発展していった。
「お父さんの会社でも、セクシャルハラスメントってあるの?」
 上の娘が、突然、男に質問した。
「うちの工場は男ばっかりの職場だ。そんなこと全く関係ないね」と男が答えると、今度は「男ばっかりの職場とはいっても、事務職の女性社員だっているでしょう?」と畳み掛けて質問を繰り返した。
「うちにも女性社員が何人かはいるけど、お前たちの会社と違って、座って仕事をしているオフィスじゃない。立って仕事をしている工場だ。そんなことができる職場じゃないぞ」男は不機嫌な表情を浮かべて答えた。

 二人の娘が就職や結婚で家を出てからは、男と妻との会話は二人が顔を合わす食事時に集中している。いや、「会話」というよりは「事務連絡」に近かった。仕事の話が妻に通じないことを、男は分かっているので、妻の仕事である家事が話題になる。帰宅時間が遅くなるとか、昼の弁当は要らないとか、出張の予定が入ったとか、妻が毎日回す家事ラインに支障を来たすような情報を、男は妻に手短に伝える。妻からは「はい、分かりました」という返事が返ってきて、そこで会話は完結する。
 男が事務連絡を忘れたことで、妻の嫌みが男に返ってくることが度々あった。そんな時は、男は「すみませんでした。今度から気を付けます」と言って謝罪する。「言わぬが花」言い訳をすれば、角のある言葉が返ってくることを、男は知っている。
 一方、妻の方も、趣味や友達付き合いの話をしても、仕事の事しか頭にない夫に通じないことを知っているので、夫にも少しは関係がある家事の話を持ち出す。明日のごみ出し日に出すごみの事とか、家で洗濯する普段着やクリーニングに出す外出着の事とか、妻の家事ラインに乗せる仕掛かり品について、妻は夫に手短に告げる。男は「分かりました」と返事をして、そこで会話が終了する。

 男が会社勤めを終え、男と妻との会話が1日3回と増えたが、共通の話題は増えていない。朝、昼、晩の食事時に会話が途切れ、静かになった台所に、カシャカシャと食器を動かす音とモグモグと咀嚼する音が、沈黙の時間を埋める。そんな事を気にすることなく、男は黙って食事をするが、妻の方は耐えられないのか、突然、今朝の新聞に載っていた政治や経済の話を出してくる。男も読んで知っていることなので共通の話題にはなるが、所詮は他所事。話は長くは続かない。しかし、二人が暮らす場所で起きた出来事の場合は別だ。関心もあれば関係も出て来るかも知れない。
「あなた、この前、回覧板で回ってきた交番の防犯チラシを見た?」
「町内会の会報は見たけど、防犯チラシは見なかったね」
「最近、町内で自動販売機荒らしがあったって、チラシに書いてあったわ。チラシを見て思い出したんだけど、もしかして富田さんのお店の自販機じゃないかしら、この前、買い物に行ったら、奥さんが『知らないうちに、店の前の自販機から現金が抜き取られた』って言ってわ」
「ええ!富田さんのお店の自販機がやられたって。知らなかったな。現金が抜き取られたと言うけど、自販機を壊せば音が出るだろうし、音が出れば富田さんや近所の人が分かるんじゃないのかな?」
 富田さんは、近所で小さなスーパーを経営している。自宅は店舗の隣にある。
「それが不思議なのよ。自販機は全く壊されていなかったんですって。朝、いつものように自販機から現金を回収しようとドアを開けたら、なかにあるはずの現金がすっかり無くなっていたんですって」
「不思議だね。夜間の静かな住宅街でバールやハンマーなどを使って自販機を壊せば、大きな音が出て周辺に住む人たちに気づかれてしまう。どうやって犯人は自販機を壊さずに、現金だけを抜き取ったんだろうね」
「それと、もう一つ不思議なことがあるのよ。富田さんの店の前には自販機が2台設置してあるんだけど、やられたのは飲み物の自販機だけで、アイスクリームの方は現金が入ったままだったそうよ。でも自販機の前にお守りが落ちていたんですって」
「お守り?犯人の遺留品かな?」
「菅原神社の学業成就のお守りだったそうよ」
「菅原神社?」男は、実家の氏神社も八幡神社だったことを思い出した。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない。そういえば、自販機荒らしの最新の手口を紹介した特報番組を思い出したよ」
「私、その番組を見ていないけど」
 (作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第15回)

2017年3月10日ニュース

「午後はもっと暑くなりそうだ。家に居ても暑いから、生駒川に行って魚捕りでもしないか」
 勇一が二人の弟を誘った。
「魚捕り?何が捕れるの?」健二が勇一に尋ねた。
「ウグイだ。いっぱい泳いでいるぞ」勇一が答えた。
「お前たち。魚撮りもいいが、事故には気を付けるんだぞ」祖父が心配そうに言った。
「大丈夫だよ。もう何回も行っている場所だから慣れているよ」勇一が言った。
 男が子供の頃には、まだ学校にプールはなかった。同じ学校に通う子供たちは、夏休みになると、水がきれいな生駒川に出掛けて行っては水遊びや魚捕りをして遊んだ。

 午後に入ると一段と暑さが増した。3人は自転車に乗って家を出た。健二は自分の自転車を漕いで、男は勇一の自転車の荷台に乗せてもらい、生駒川に向かった。3人が山麓を流れる生駒川に着くと、他に子供の姿はなかった。夏休みの宿題に追われているのだろうか。お盆前に来た時は大勢の子供たちが水遊びや魚捕りをしていたのだが、今日は3人の他に誰もいない。
 蝉の鳴き声が周囲の山肌に当たって木霊している。川面を涼風が渡る。3人はサンダルを脱いで素足を川の中に入れた。川の水が火照った体を冷まし、汗を止めた。
 川岸から水面を覗くとウグイが群れをなして泳いでいる。水中眼鏡とシュノーケルを付けた勇一は、手にヤスを持って下流部に向かった。男と健二は川岸で、たも網を持ってウグイの群れを追った。
 二人は向こう岸に行くために、川面から顔を出した岩を渡った。
「わー!」どぼーん、と川面を叩く音がした。
 男が濡れた岩に足を滑らせて川に転落した。深みに落ち込んだ男の体が流されていった。
「兄ちゃん、助けて!」
 男の悲鳴と助けを求める声を聞いた健二であったが、急な流れに身を捕られた男の体を捉えることができなかった。
「雄一兄ちゃん、助けて!徹が川に落ちてそっちに流れていくよ!」
 健二が大声を上げて勇一に助け求めた。男の体が流れ下る先で川に潜って魚を捕っていた勇一が水中から体を出して、流れてきた男の体をやっとの思いで掴んだ。男の体を掴んだ勇一は川岸で待機していた健二に徹の体を預けたが、今度は勇一の体が急流に押し流され、やがて川面から姿を消した。
(勇一兄さん、ほんとうにすまなかったね)
 勇一の命と引き換えでもらった男の命。男は自責の念に駆られながら人生を送ってきた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第14回)

2017年3月8日ニュース

 男は写真に納まっている子供の頃の自分と、洗面所で毎朝、見る今の自分とを見比べて、50年も経つとこんなにも顔形が変わってしまうのかと思った。薄くなった頭髪、広くなった額に引かれた4本の横皺、垂れ下がた目尻、削げ落ちた頬、張りと艶をなくした肌。男の顔には60年の人生が刻まれている。次兄の健二の顔にも62年の人生が刻み込まれている。しかし長兄の勇一の顔には14年の人生しか刻まれていない。
(不思議だ)男はつぶやいた。写真に写っている子供の頃の自分と次兄の顔は色あせてしまったが、長兄の顔は退色することもなく今もつやつやととした肌と輝きを保っている。

 男の視線は50年前の郷里に向かった。お盆が終わって夏休みも残りわずかとなったある日。朝から夏の強い日差しが地面を照り付けていた。家の中の風通しを良くしようと縁側の戸を開けっ放しにするが、部屋の中に貯まった蒸し暑い空気は外に出て行かない。
 ジー、ジー、ジー、とアブラゼミの鳴き声が家の中に入って来て、蒸し暑さを余計に感じさせる。
 カラン、カラン、カラン、と鉦を鳴らす音が遠くから聞こえてきた。徐々に大きくなってきた鉦の音がアブラゼミの鳴き声を打ち消し、家の中に涼感を運んできた。
「じいちゃん!あの鉦の音。もしかして、氷菓子を売りに来たんじゃない?」
 茶の間でテレビを付けながら、うたた寝をしていた男が祖父に言った。
「お前たち、好きなものを買ってきな」
 祖父は財布から取り出した小銭を勇一に渡した。勇一、健二、男の3人は玄関前の道路に出て、氷菓子を売りに来た麦わら帽子のおじさんを待った。
 カラン、カラン、カラン
 発泡スチロール製のクーラーボックスを荷台に積んで自転車を引く麦わら帽子のおじさんの姿が3人の視界に入った。自転車が家の前で止まった。おじさんがクーラーボックスの蓋を開けると、棒の付いた箱型のアイス、チューブやボールの形になったアイスなど、色も形も様々な氷菓子が入っていた。男と健二がチューブ型とボール型の氷菓子をそれぞれ選んだ。勇一は棒の付いた箱型のアイスを2本選んだ。1本は祖父の分だ。勇一が代金を払うと、3人は家に入って火照った体を氷菓子で冷ました。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第13回)

2017年3月6日ニュース

 米の収穫が終わると秋祭りが行われる。秋祭りは春から始まった農耕を助け稲田を守ってくれた田の神に収穫を感謝する祭りだ。男の実家が氏子になっている菅原神社の秋祭りは2日かけて行われる。普段は神社に鎮座する御神体(氏神)が神輿に移されて、その神輿が村中を巡行する。初日は御神体を神輿に移す「宮出し」が行われ、二日目は巡行を終えた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。中学生の勇一は大人の神輿を担ぎ、小学生の男と次兄の健二は子供の神輿を担いだ。

 祭り2日目。昨日に続く穏やかな秋晴れのなか、神社の境内には男衆の担ぐ神輿、女衆が担ぐ神輿、それに子供たちが担ぐ神輿が台座に据えられ並んでいる。一升瓶に入った日本酒が白い猪口に注がれ、神輿の担ぎ手に振る舞われた。男衆のなかには顔を赤らめた若者もいる。祭り用の白装束を身にまとった男と長兄の勇一、次兄の健二も神輿の前で待機している。観衆のなかに姉の佳子と妹の裕美の姿もあった。
「お兄ちゃんたち、かっこいいわよ!」裕美が声を掛けた。勇一たち3兄弟が、妹の声援に手を上げて応えた。
 神輿が出発する前に、神楽舞の一行が神社にやって来て獅子舞と剣舞を披露した。獅子頭に頭を食まれ泣き出した幼子もいた。
「よし、出発だ」
 神楽舞が終わったのを確認した先導役が号令を掛けた。担ぎ手の肩に載せられた神輿がゆっくりと参道を通り、山門をくぐって通りに出た。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ

 役場前の広場に集まった大勢の観衆を前にして、男衆の神輿が押し合いを演じた。広場には佳子と裕美が先回りをして、男たちの神輿が来るのを待っていた。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 熱くなった男衆の体から湯気が上がる。押し合いを終えた男衆の神輿は、一路、神社に向かった。御神体を乗せた男衆の神輿が巡行を終えて神社に戻って来た。境内には佳子と裕美の姿もあった。これから秋祭りのクライマックスシーンが始まる。巡行を終えて帰ってきた神輿から御神体を神社に戻す「宮入り」が行われる。神輿が神社の境内に入るや、神輿の帰りを待っていた男衆と女衆はスクラムを組み、御神体に悪霊が紛れ込まないようにと、結界を作った。
 エイサ、エイサ、エイサ
 エイサ、エイサ、エイサ
 掛け声を上げて男衆と女衆は押し合った。御神体の宮入りが終了したことを示す神楽の奉納舞が行われ祭りは終わった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者

小説「視線」(第12回)

2017年3月4日ニュース

 男は食事の時間以外は2階の自室に籠って、孫の雄太と工作する乗り物の試作品作りに没頭した。男の器用な手さばきで机の上に広げた化粧箱がカッターで切りとられ、乗り物のパーツが次から次へと出来上がる。男が時折、疲れた首を持ち上げると、写真立てに入った1枚の写真と向き合う。色あせた写真には、台座に据えられた神輿の前に立っている法被姿の3人の子供が写っている。男と二人の兄だ。真ん中に立っているのが長兄の勇一、右側には次兄の健二、左側には男が立っている。子供の頃、男の郷里で毎年行われていた秋祭りの写真だ。
「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今も めぐりて 忘れがたき 故郷……」
 男は童謡「ふるさと」を口ずさんだ。脳裏に子供の頃に過ごした郷里の情景が蘇った。
 家の前に広がる田んぼの絨毯、緑や黄色の中に点在する農村集落、背後に見える山並み。男が子供の頃に過ごした故郷には四季折々の色と匂いと音があった。
 春の緑色、夏の青色、秋の黄金色、冬の白と黒。
 春は青葉の匂い、夏は草いきれ、秋は稲わらの匂い、冬は鼻を刺す冷たい空気の匂い。
 ド、ド、ド ダ、ダ、ダ 春はたんぼを耕す耕運機の音。
 ジー、ジー、ジー 夏は蝉の声。
 ザク、ザク、ザク 秋は鎌で稲穂を刈り取る音。
 ヒュー、ヒュー、ヒュー 冬は北風の音。

 男は東北地方の寒村にある農家に生まれた。戦時中は小作農家だった男の家は、終戦後、GHQの指令で行われた農地改革によって、小作地の払い下げを受けて自作農家となった。この農地改革は、GHQが行った日本の民主化政策の一つで、地主制度の解体を目的に、大地主と小作人との経済的な支配従属の関係を解消させるために行われた。不在地主の全所有地と、在村地主の貸付地のうち都道府県で平均1町歩、北海道で4町歩を超える分を、政府が強制的に地主から買い上げて小作人に極めて安い価格で売り渡した。また政府は終戦直後の食糧不足を克服するため、「食料増産・自給政策」を推進した。自作農家の米作りを奨励する目的で、政府から打ち出された食糧管理制度に守られて、男の家では農地改革で払い下げられた2町歩の自作地を少しずつ増やして3町歩ほどに広げた。
 男が子供の頃の農業は機械化が始まったばかりで、人力がまだ主流の農作業は多くの人手と手間のかかる重労働だった。当時の米農家が抱えていた慢性的な労働力不足を補ったのが子供だ。食べる物に困らない農家には子供が自然と多くなる。男には自分を含めて5人の兄弟姉妹がいた。2人の兄、それと姉と妹だ。

 田んぼ仕事は雪消え間もなく行われる「田起こし」から始まる。田起こしは雪の重みで硬く締まった田んぼの土を掘り起こし砕いて柔らかくする作業だ。次に田んぼに水を引き入れ更に細かく土を砕いて柔らかくし、最後に平らにならす「代掻き」が行われる。「田起こし」と「代掻き」は耕運機を使って行われた。耕運機がまだ普及していなかった頃は馬に鋤を引かせていたようだ。微かに残っている幼少期の記憶を辿ると農作業場の隣に厩があった。米作りは種蒔きから始まる。発芽させた種籾を苗代田に蒔いて苗を育てる。程よく伸びた苗を抜き取り田んぼに植える「田植え」が始まる。夏場は田んぼの草取りに追われる。

 お盆過ぎ頃から稲の開花が始まり結実期を迎える。九月に入ると黄金色に色づいた田んぼにはずっしりと重たくなった稲穂が頭を垂れながら、風になびいている。間もなく「稲刈り」が始まる。しかしこの時期は、農家にとってはやっかいな台風シーズンでもある。鎌で刈り取った稲は稲架木に掛けて天日干しにする。乾燥させた稲穂から籾をはずす「脱穀」、籾から籾殻を除いて玄米にする「籾摺り」を経て出荷用の玄米が出来上がる。玄米は60キロ入りの麻袋に詰められて農協に出荷される。田起こしから始まった一連の農作業は袋詰めした玄米を出荷した段階で終わる。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者