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小説「視線」(第8回)

2017年2月24日ニュース

 第2土曜日の朝。男は1階の居間で新聞を広げて読んでいる。妻は台所で食器を洗っている。玄関前に1台の車が止まった。どうやら上の娘が孫たちを預けに来たようだ。
 ガラ―、と玄関を開ける音がした後、
「おはようございます!」と孫たちの甲高い声が家中に響いた。
「雄太、春奈、おはよう」妻が玄関に出て二人の孫を出迎えた。
「おはよう、お母さん。雄太と春奈をお願いね」上の娘が言った。
「分かったわよ。気を付けて行ってらっしゃい」妻が二人の孫を預かって娘を送り出した。
「おばあちゃんは、台所の後片付けがまだ残っているから、終わるまで、おじいちゃんの居る部屋で待っててね」
「はーい」妻は台所に戻り、二人の孫は居間に入った。
「おじいちゃん、おはよう」雄太と春奈が居間で新聞を読んでいる男に挨拶をした。
「おはよう、雄太に春奈。二人とも朝ご飯は食べたのか」男が二人の孫に尋ねた。
「食べたよ。おじいちゃんは食べたの?」雄太が男に聞いた。
「今、食べたところだよ。これから子供向けの番組が始まるぞ」と、男は部屋の柱時計が間もなく8時半を告げるのを確認して、テレビのリモコンスイッチを入れた。学校の完全週休2日制が実施されてからは、土曜日の午前中に子供向けのテレビ番組が多くなった。
 最初は機関車をキャラクターにしたアニメーションドラマだ。雄太と春奈は男の家に来ると子供向けの番組を見て過ごす。しばらくして台所の後片付けと洗濯を終えた妻が居間にやってきた。孫たちが家に来る日は、1階に敷かれた家事ラインは炊事と洗濯だけになる。

 妻は昨日、ショッピングセンターで買って来た菓子袋を開けて、袋の中から小袋を取り出して二人に配った。小袋を受け取った春菜が、
「おばあちゃん、このお菓子、この前テレビで見たよ。私、前からこのお菓子を食べたかったの」と、妻に向かって言った。
「そうなの。よかったわ。食べてごらん」妻が春奈に言った。
 菓子袋のパッケージには人気キャラクターが印刷されていた。また、小袋の中にも同じキャラクターの形をしたクッキーが入っていた。二人はテレビを見ながら食べ始めた。男も昨日、ショッピングセンターで買ったミニカーの箱を2階から持ってきて、箱から赤いスポーツカーを取り出した。
「雄太は乗り物の模型を集めているんだって。おばちゃんから聞いたぞ。これは、おじいちゃんが若い頃に、工場で作っていたスポーツカーの模型だよ。雄太にあげるよ」
「もらっていいの。ありがとう。このスポーツカー、おじいちゃんが作っていたの。すごいな!」
「そうだよ。おじいちゃんが作ったスポーツカーにおばあちゃんを乗せてドライブに出掛けたものだよ」と男が言うと、
「思い出したわ。この赤い車、あなたと付き合っていた頃に乗っていた車じゃないの」妻が合いの手を入れた。
「それって、デートってこと」春奈が言った。
「春奈はデートって言葉を知っているの。おませな子だね」妻が笑って言った。
「雄太、完成品の乗り物を集めるのもいいが、作る方がもっと楽しいぞ。おじいちゃんが若い頃は、プラモデルといって、プラスチックの部品を組み立てて乗り物を作ったんだ」
「僕でも作れるかな」
「大丈夫だよ。おじいちゃんが1から教えてあげるよ。今度、家に来た時に、おじいちゃんと一緒に乗り物を作ろう」
「ほんとに?楽しみだな。おじいちゃん、約束だよ」
「おじいちゃん、私のはないの?」
 妻の隣に座って二人の会話を聞いていた春奈が男に向かって言った。
「そうそう、春奈にもプレゼントがあるんだ」
 男はまた2階に上がって人形模型の入った箱を持ってきて春奈に渡した。
「わーい!これ前から欲しかったの」
 男が春奈に渡した模型は人気キャラクターのフィギュアだ。昨日、雄太のミニカーを買った後、春奈にも同じように模型をあげないと不公平になると考えた男は、いったん出たおもちゃ売り場に戻って買ったものだった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者