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小説「視線」(第9回)

2017年2月26日ニュース

 時計の針が午前11時を回った。
「今日のお昼はピザにしようか。春奈、手伝ってくれる?」妻が言った。
「おばあちゃん。ピザを作れるの?」
「もちろんよ。この前、料理教室で習ったのよ」
「お家でも、お母さんが時々、ピザを作ってくれるよ。春奈も手伝う!」
「じゃ、一緒に作ろうか」
「うん」
 妻が冷蔵庫を開けて材料を取り出した。
「ああ、しまった。ミニトマトを買うのを忘れてたわ。あなたお願い。ミニトマトを買ってきて」
 買い物を頼まれた男は自転車を漕いで近くのスーパーに向かった。スーパーに行く途中で、ホームセンターの店先に並んだミニトマトのプランターを見つけた。赤い実が幾つか付いている。
(ミニトマトってプランターでも作れるのか。家でも作ってみるか。簡単そうだし。それにいつでも食べられる)と男は思った。

 午後になって、妻は春奈と台所でお菓子作りを始めた。今日はチーズケーキを作るらしい。二人はパイ生地作りから始めた。男と雄太は2階にある男の部屋でアルバムを広げて写真を眺めている。男が勤めていた工場で製造していた車の写真集だ。完成車両だけでなく組み立て中の写真もある。生産ラインに立った作業服姿の数人の男たちが、車の周りを取り囲んで作業をしている。雄太は、手にスパナを持った作業服姿の男を指差して言った。
「この人って、もしかしておじいちゃん?」
「そうだよ。おじいちゃんがまだ二十代の頃の写真だ」
「この時、工場ではどんな車を作っていたの?」
「さっき、雄太にあげた赤いスポーツカーだよ」
 男が工場に就職した頃に生産していた車種はスポーツカーが中心だった。その後、大衆車にシフトし、現在は主に高級車を生産している。男が勤めた工場では、団塊世代のニーズに合わせるように生産する車種を変えていった。男もスポーツカー、大衆車と買い替えていったが、所有している車は大衆車のままだ。
「おじいちゃん。今でもこうやって車を作っているんだ」
 車が完成するまでの生産ラインの写真を見ながら、雄太が言った。
「おじいちゃんが工場に入った頃は、何人かでチームを編成して、車を組み立てていたが、今はロボットが組み立ているんだ」
「人間じゃなくてロボットが車を作っているの?」
「ほら、この写真を見てごらん。人間の腕のような形をしたアームが車体のボディーに鋲を打ち込んでいる写真だ」
「ほんとうだ」雄太の目が輝いた。
「全部の工程じゃないけど、鋲を打ち込むとか、ねじを巻くとか、塗装といった単純な作業は人間よりも機械の方が速く正確に行うことができるので、ロボットに任せているのさ。人間はロボットが正しく動くように制御しているんだ」
「後姿しか見えないけれど、この人って、おじいちゃん?」
「そうだよ。制御盤のメーター見ながら、ロボットが正常に動いているかどうかを確認しているんだ」
「すごい!こんな風にして、大勢の人やロボットが作業を分担して車が出来上がるんだね」
「そうだとも。1台の車を完成させるまでは時間と手間が掛かるけど、その分、完成した時の喜びは大きいぞ」
「車を作るって楽しそうだね」
「そうだとも雄太。今度、おじいちゃんの家に来たら、一緒に乗り物を作ろうか。楽しいぞ」
「うん、分かった。ところで、おじちゃん。どうやって車を作るの?」
「本物の車みたいに鉄板を切って作るわけにはいかないので、紙を使って乗り物を作るんだ。出来上がった乗り物のボディーに、絵の具を使って好きな模様や色を塗ることができるぞ」
「わーい。おじいちゃん楽しみにしているよ」雄太は満面に笑みを浮かべた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者