小説「朱鷺伝説」(第8回)
2017年4月19日ニュース
里山近くにある雄太の家の田んぼは今年も稲の生育がよくない。植えたばかりの若い苗を鳥が踏み荒らすからだ。雄太の父は田んぼで悪さをする鳥が、朱鷺ではなくてゴイサギであることを知っていた。
ゴイサギは、サギと違って夜行性の鳥だ。昼間は薄暗い森に住み、夕方になると水田や小川に飛んできて、魚、カエル、ザリガニなどを捕って食べる。
夜空をクワッ、クワッと鳴きながら飛んで行くことから夜ガラスという名前が付けられている。普通のサギよりも体の大きいゴイサギの悪行が朱鷺の仕業になってしまったのだ。
7月のある満月の夜。雄太と父は田んぼの水回りをするために外に出掛けた。
ケロ、ケロ、ケロ。
水が張られた田んぼからカエルの鳴き声が聞こえてくる。二人が田んぼに到着すると3羽の鳥がいた。
「またゴイサギが飛んで来て田んぼで悪さをしているようだ」父が言った。
「お父さん違うよ。朱鷺だよ」
父は月明かりのなかで目を凝らして鳥を見た。
「本当だ。雄太の言うとおり、あの3羽の鳥は朱鷺だね。脚に輪っかが付いている。もしかすると山のなかで保護したあの朱鷺の雛かもしれない」
二人は山の中で保護して育てた朱鷺の雛が大きくなって放鳥する時に、足環をつけたことを思い出した。
3羽の朱鷺はゴイサギで荒らされた田んぼで田植えをしていた。ほどよく成長した黄緑色の苗をくちばしにくわえて、丁寧に植えている。月明かりなか、二人は3羽の朱鷺が田植えをしている不思議な光景をしばらく見ていた。
(作:橘 左京)
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