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小説「朱鷺伝説」(第6回)

2017年4月15日ニュース

 4月中旬。雪が消えた田んぼでは田植えの準備が始まった。村人に引かれた農耕馬が田んぼを耕している。岸辺に打ち寄せるさざなみ波のように耕された隣の田んぼでは、村人が手すきを使って細かく土を砕いている。
 5月下旬。水が引かれてドロドロになった田んぼで田植えが始まった。田んぼに植えられた若い苗が太陽の光を受けて少しずつ伸びてきた。田んぼの茶色が徐々に緑色に変わってきた。
 近くの里山から数羽の朱鷺が平地に広がる田んぼにやってきた。水が張られた田んぼにはドジョウ、おたまじゃくし、カエル、タニシなど、朱鷺の食べ物がたくさんある。
「あ、朱鷺が田んぼに降りたぞ!」
 ドン、ドン、ドン。バン、バン、バン。
 植えたばかりの苗を踏み荒らされてはたまらないと、村人たちは手に持った柴の棒で鍋底を叩いて朱鷺を山へと追い払おうとした。鍋底を叩く音に驚いた朱鷺は田んぼを飛び立っていったが、少し離れた所にある田んぼに降りて、また食べ物を探し始めた。

「鍋の音で脅かしても効き目はなさそうだ。わしの鉄砲の音で朱鷺を蹴散らしてやろう」
 ドーン、ドーン、ドーン。
 猟銃を持った男が空砲を三発、空に向けて放った。
 田んぼにいた朱鷺が一斉に飛び立った。今度は近くの神社の境内に茂る杉林の方に飛んでいった。田植えが終わったこの時期は朱鷺の子育ての時期と重なる。里山の樹の上に作られた朱鷺の巣には4月に生まれたばかりの雛が腹を空かせて親鳥の帰りを持っている。雛の食欲は旺盛だ。腹を空かせて待っている雛に食べ物を運んでいかなければならない親鳥は、田んぼと巣の間を忙しく行き来している。

 1時間ほどが経って、ひとつがいの朱鷺が神社近くの田んぼに降りて食べ物を探し始めた。その田んぼは先ほど猟銃で空砲を放った男の田んぼだった。それを見た男は怒った声で言った。
「わしの田んぼで悪さをするとは、にっくき朱鷺め。鉄砲で撃ち殺してやる!」
 男は実弾を込めた猟銃の銃口を朱鷺のつがいに向けた。
 ダーン、ダーン、ダーン。
 銃声に驚いて飛び立った二羽の朱鷺の体に銃弾が命中して、二羽は田んぼに落ちていった。
 男は田んぼに落ちた二羽の朱鷺を手に取って言った。
「ざまあみろ。わしの田んぼで悪さをすると、こういうことになるんだ。肉は鍋に入れて食べるとするか。羽はむしり取って町の機織屋に持って行くか。高価な朱鷺色の羽は高く売れるだろう」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者