小説「朱鷺伝説」(第5回)
しばらくして、リーダー格の太郎が子供たちに向かって言った。
「体も温まったし、これから鳥追いに出掛けるけど、みんな準備はいいかい?」
「いいよ!」子供たちはわらを編んで作った蓑を頭から被って外に出た。
外は小雪がちらついている。あちこちのホンヤラドウから、蓑を身にまとった子供たちが広場に集まってきた。広場の中央にはさいの神が建っている。
さいの神は、地面に立てた竹の回りに杉の葉っぱや豆殻などを押し込んだ後、周りを稲わらで囲った円錐形の塔だ。このさいの神は明日の夕方に火入れが行われる。
広場に集まった子供たちは拍子木を持って隊列を組んだ。何人かの子供たちは火を付けた松明を持っている。いよいよ鳥追いの出発だ。
カチ、カチ、カチ。拍子木を打ち鳴らす音に続いて、鳥追いの歌が始まった。
鳥追いだ 鳥追いだ だんなショの鳥追いだ
どごからどごまで追っていった
信濃の国から佐渡が島まで追っていった
何でもって追っていった
柴の棒で追っていった
いっちにっくい鳥は ドウとサンギと小雀
みんな立ちあがれ ホーイ ホーイ
あの鳥ャどっから追ってきた
信濃の国から追ってきた
何もって追ってきた
柴抜いて追ってきた
一番鳥も二番鳥も飛立(たち)やがれ ホーイ ホーイ
ホンヤラ ホンヤラ ホーイ ホーイ
1月15日の夕刻、薄暗くなった広場では大勢の村人たちがさいの神を取り囲んでいる。さいの神に火が付けられた。白い煙がモクモクと稲わらの隙間から出てきて、周りにいた村人たちを包み込んだ。ゲホ、ゲホ、ゲホと、白い煙を吸い込んで咳き込む者や、白い煙が目に染みて涙を流す者がいた。しばらくすると白い煙が無くなって、今度は赤い炎が吹き出した。幾つもの小さな炎が集まって火柱となり天空を突き刺した。村人たちは、勢いが衰えた炎に丸い団子やスルメを付けた柴木をかざした。鳥追いもさいの神も、村人とっては豊作を祈願する大事な年中行事だ。
(作:橘 左京)