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小説「廃屋の町」(第132回)

2018年1月14日ニュース

「私はあの山の事故以来、甘木雄一として人生を送ってきました。しかし、二年前に田沼市に帰ってきてからは、野上治夫が時々、私の心の中に現れるようになりました。治夫は、父親であるあなたに憎しみを抱きながら生きてきました。あなたの身勝手、無責任な行いで人生を狂わされ亡くなった母や妹の気持を思うと、あなたに対する憎悪が一層、強くなっていました。風間さんとこの家を訪ねる前に、何度かこの家の前を車で通ったことがありました。野上治夫に戻って、玄関の戸を開けたいという思いに駆られたこともありました。しかし、野上治夫は30年目に山の事故で亡くなって、母や妹と同じように彼岸にいます。あなたに抱いている憎しみがどれほど大きくても、彼岸にいる3人はその気持ちをあなたに伝えることはできません」
「彼岸にいる3人?治夫は彼岸にいるということかね?それでは、今、ここで私と向き合っているあんたは誰だね?」
「甘木雄一です。先ほど、私の位牌に焼香したことによって、私は野上治夫の人格を捨てることができました。田沼市長の甘木雄一からすれば、あなたは一人の善良なる市民であり、あなたに対して、特別な感情はありません」
「そうか。では、此岸にいる私は、彼岸にいる妻の聡子、息子の治夫、娘の洋子に犯した罪をどのようにして償えばいいんだろうか?」
「それは、野上さん自身が考えることです。私が申し上げる話ではありません。市長として、これから私がやらなければならないことがあります。本来、公益に奉仕すべき公務員が、その職責を忘れ、私益に奉仕せざるを得ない状況を正すことです。この地域には旧態依然とした悪弊が風土病のように根付いています。この悪弊を断ち切らなければ、田沼市の未来は切り開けないと考えています。いつの時代も、未来を開拓するのは子供たちです。私は、田沼市を子供たちが夢や希望を抱けるような町にしたいと考えています」
「甘木さん、あなたはお爺さんにそっくりだ。甘木富雄市長が就任した直後に長野県北部地震が発生しました。復旧・復興に向けた多額の予算が国から被災地につぎ込まれ、それが特需となって地元の建設産業を潤したわけですが、その一方で、市から提供された入札情報をもとに入札談合が公然と行われていました。甘木市長は、4年間の市政運営の中で一番に取り組んだのが入札改革でした。談合体質の入札にメスを入れ、競争原理が働く公正公平な入札に改革しようと尽力されましたが、それを阻止したのが建設業界です。改革半ばで、甘木市長は抵抗勢力の権謀術数によって再選を阻まれたんです。公益に奉仕する立場にありながら職を汚してしまった私が言うことではないかもしれませんが、今度は、孫のあなたが亡くなったお爺さんの遺志を汲んで改革を成し遂げて欲しいと思っています」
 野上は畳に両手をついて頭を下げた。田沼市長甘木雄一は、もう二度と帰ってくることのない我が家に別れを告げ、野上の家を後にした。野上昭一は家族の霊を弔うために、四国巡礼の旅に出た。家を処分して旅に出た野上には戻って来る我が家はない。(了)
(作:橘 左京)

【お知らせ】
 ●長い間のご愛読を感謝申し上げます。小説「廃屋の町」は、編集作業を経た後、5月に文芸社より全国出版されます。
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 ●2月からは、小説「強欲な町」を連載します。

posted by 地域政党 日本新生 管理者