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小説「廃屋の町」(第35回)

2017年7月6日ニュース

「もう一つ、甘木が市長に当選したら、やってもらいたいことがあるんだ」小島が言った。
「どんなことだい?」甘木が尋ねた。
「さっきも言ったように隣町にできた大型の商業施設に逃げてしまった市内の消費を何とか戻して欲しいんだ。その商業施設の中は、スーパー、洋服店、靴屋、本屋、時計店、雑貨店、化粧品店、薬局、スポーツ店、電気屋、といろいろな店が軒を並べている。おまけに映画館まで入っている。シネマコンプレックスといって、いろんなジャンルの映画が同時上映されているので、好きな映画を選んで見ることができる。あの巨大な建物の中に、商店街がすっぽりと入っているような感じだ」小島が言った。
「映画館で思い出したけど、この町にも昔は映画館が二つあって、学校が長い休みに入ると子供向けの映画が上映されるので、友達と見に行ったよ」甘木が言った。
「あの頃は、今みたいにテレビゲームのような子供の遊びも少なかった時代だったしなあ。俺も映画館にはしょっちゅう行ったよ。風間ともう一軒の成人向け映画館に、こっそり入ったこともあったよな」
 小島が風間に向かって言った。
「そうそう、高校生の時だったよな。制服だと学校にばれてしまうので、私服に着替えて行ったんだけど、映画館を出たところを久保田恵子に見られてしまってね。その場から走って逃げたけど、恵ちゃんが学校の担任に連絡したらしくて、生徒指導の先生にこっぴどく怒られたことがあったよな」
 風間が言った。甘木はニヤニヤと笑った。
「甘木、話を元に戻すけど、隣町に大型商業施設が出来たことで、市内の消費が冷え込んでいるんだ。若い者は地元の商店には見向きもしないでこの商業施設に買い物に行っている。隣の若夫婦も休みの日になると、子供を連れて出掛けて行くよ。週末は必ずイベントが入るから、お昼を兼ねて半日は過ごせる。特に、天気の悪い日になると、家族でこの商業施設に行っているみたいだね。これまで、お年寄りの消費に頼って来た我々、商店街の努力不足はあるけど、運転免許証の自主返納で車の運転ができなくなった馴染みのお年寄りが、商店街に買い物に来なくなった。何とかならないものだろうか?」
 小島が言った。
「僕もその隣町の商業施設をよく利用しているけど、商店街と比べて、品揃えが多いことと値段が安いなって思ったね。例えば、テレビなどの家電製品で比較すると地元の商店街で買うよりも安いというのは魅力的だよ。アフターサービスを考えれば、地元の電気店で買った方がいいと思うけどね」
 甘木が言った。
「しかし、最近の家電製品は品質が良くなっているので、簡単には壊れなくなったね。壊れて修理に出しても高い修理代を考えれば、修理代よりも高くはなるが省エネ型の新しい物に買い替えた方がいい場合だってあるよ。そういえば、山上電気店は商売をやめちゃったの?先月からシャッターが降りたままだけど…」風間が言った。
「どうやら店を閉めたみたいだね。馴染みの客が量販店に流れたことや、店主の高齢化に加えて後継ぎがいなかったからじゃないかね。ウチの場合、親父の代にこの食料品店を始めたんだけれど、俺は子供の頃から親父の背中を見ていたもんだから、親父に言われなくてもこの店を継いだけどね。しかし、俺の次にこの商売をやる者がいなくて困っているよ。東京で所帯を持っている長男は、もう実家には帰って来ないだろうし、家に残っている次男坊には期待をしているんだが、会社を辞めて家業を継いでくれ、とはなかなか言い出せなくて悩んでいるんだ」小島が言った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者