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小説「廃屋の町」(第34回)

2017年7月4日ニュース

「孝雄ちゃん、いいこと言うね。同級会でも言ったように、政治経験も行政経験もない甘木だが、旧田沼市長を務めた爺さんの血が流れているんだ。俺たちが中学生だった頃に大きな地震があっただろう。その時、市長をやっていたのが甘木の爺さんだよ。市議をしていた俺の爺さんから聞いた話だけど、甘木の爺さんは先頭に立って復旧・復興に向けて陣頭指揮をとっていたそうだ」風間が言った。
「その地震って、俺たちが中学一年生の時にあった長野県北部地震じゃないの?学校の体育館が避難所になって、半年くらい体育の授業ができなかったけどね。この店の建物も半壊して大変だったよ。建物が壊れてそのまま廃業した店もあったけど、親父は『うちの店に来るお客さんに迷惑をかけられない』って、早く店を再開しようと頑張っている姿を見て、子供ながらも親父ってすごい人だなって思ったよ。だから、俺も、親父が苦労して再開したこの店をもっと大きくしてやろうと思って、売り場を広げてスーパーにしたんだ」小島が言った。
「俺もそうだけど、小島がこの店の後を継いで大きくしたのも親父さんの影響が大きかったんだね。しかし、俺たちが子供の頃、賑わっていた、あの商店街は一体どこにいってしまったんだろう」
 風間が言った。
「小島君は小さい頃から商店街の移り変わりをつぶさに見ているから、どうして、こんなにも寂れてしまったのか、知っているんじゃない?その辺の話を是非、聞かせてもらいたいんだ」甘木が尋ねた。
「そうだな、一つはお客さんの高齢化だよ。この商店街や定期市に買い物に来るお客の約7割は高齢者だ。若いもんは隣町にできた大型商業施設に買い物に行くけど、お年寄りは昔から付き合いのある地元の商店を利用している。商店街の近くに住んでいれば、徒歩や自転車で買い物に行けるけど、商店街から遠い郊外に住んでいるお年寄りは車や市営バスを使わないと町場の商店に買い物に来られない。買い物に行くにも医者に行くにも、郊外に住んでいると足が必要だ。ところが、最近、高齢を理由に運転免許証を警察に返納したお年寄り、特におじいちゃんが町場に出ていくための足がなくて困っているようだ。市バスが走っていない地域に住んでいるお年寄りもいれば、市バスが走っている地域に住んでいても、バスの本数が少なかったりして、まだまだ不便な点が多いんじゃないだろうか」
「僕たちが子供の頃は、商店街から離れた郊外に住んでいても、近所に小さな商店が必ずあったよ。また、野菜や魚、肉などの生鮮食品、それに惣菜などの加工商品を軽トラックに積んで郊外を回る行商もあったよ」甘木が言った。
「車がまだ普及していなかった頃の話だけど、ウチの親父も揚げ物をリヤカーに積んで、そのリヤカーを原付バイクで引っ張って、売りに回っていたのを覚えているよ。俺がまだ寝ている時分に起きて、おふくろと一緒に揚げ物を作っていたよな。揚げ物の匂いが寝床にまで届いて、グーグーってお腹が鳴ったよ」小島が言った。甘木と風間はニヤニヤと笑いを浮かべた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者