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小説「廃屋の町」(第24回)

2017年6月14日ニュース

 田沼市長選挙前年のお盆に行われた田沼第一中学校の同級会。集まった40人ほどの同級生を前に幹事の風間健一が口を開いた。
「井上市長が来年春の市長選に出馬するそうだ。この話は、たぬま新報の高橋からもらった情報だ。井上市長は三期で一区切りと言っておきながら4選出馬を考えているらしい。長谷川寅蔵前市長もそうだったが、二代続けての県庁出身の天下り市長はもう沢山だ。地元に残っている我々同級生の中から市長候補を出さないか?」

 風間の突然の提案に驚いた久保田恵子がすかさず反応した。
「えーまじ!私たちの中で市長になれる人がいるの?」
「ええ、ほんとかよ。風間、誰を市長選挙に出すんだよ?」
 会場からどよめきの声が上がった。風間は話を続けた。
「我々同級生の星、甘木雄一がいるじゃないか!」同級生の視線が一斉に甘木に集まった。
「ええ!僕のこと?」いきなり自分の名前を出された甘木は驚いた様子で言った。
「そうだよ。次の市長には甘木、おまえが適任だよ。昔の話になるけれども、甘木のお爺さんは合併前の旧田沼市長を務めていたじゃないか。政治家の血筋を持っている甘木なら市長になってもおかしくないよ。僕の爺さんも甘木のお爺さんが市長をしていた頃に市議会議員をしていたからね。甘木が来年4月の市長選挙で市長に当選したら、10月に行われる市議選に俺も立候補したいと思っているよ」
「風間、お前、調子がいいぞ。甘木を市長に当選させた余勢でお前も市議会議員になろうという魂胆じゃないか」
 同級生の一人が突然口に出した一言で会場は爆笑の渦に包まれた。
 甘木はおもむろに口を開いた。
「僕の爺さんが亡くなってもう35年にもなるよ。それに合併前の市長だったし。爺さんを支持してくれた人はもうお墓の中だよ」
 
 風間はそんな甘木の弱気な気持ちに活を入れようと話を続けた。
「甘木のお爺さんが市長だったことを覚えている人は、ほとんどいないけど、甘木には辣腕市長だったお爺さんの血が流れている。甘木に市長になってもらって、寂れたこの町の商店街を活性化してもらおうじゃないか。俺は親の後を継いで地元で商売をしているが、商店街から客足が遠のいている。特に周辺部に住んでいるお年寄りが、車の運転ができなくなったことで、商店街に買い物に来なくなった。そんな商店街の窮状を無視するかのように、井上市長は建設業者に仕事をやるために、多額の借金をして無駄な公共事業をやっているよ。今の田沼市の現状は、『土建屋が栄え商店街が滅ぶ』だよ」
 風間はさらに語気を強めて言った。
「井上市長はもう69歳だ。こんな年寄りにこの街の将来を託せると思うかい?」
「そうだ、そのとおりだ。甘木、お前、市長選挙に出ろよ!」
 会場の一角から大きな声が上がった。
「そうだ!そうだ!甘木、俺たち同級生の力でお前を市長にしてやるぞ!」

 風間の切実な訴えと同級生の激励の言葉に心を動かされた甘木は口を開いた。
「僕は高校を出て以来、地元を離れ32年ぶりにこのまちに戻って来た。風間君の言うとおり、僕たちが子供の頃に比べて商店街はすっかり寂れてしまった。小学生の頃に両親と一緒に商店街に買い物に来たことがあったけれども、あの頃は大変な賑わいがあったよ。週末や定期市が立つ日にはアーケード街は大勢の買い物客でごった返しになっていたことを覚えているよ。風間君がさっき言ったように、人口が減少しているのに市の借金だけが増えている。増えた借金の返済は僕たちや子供たちが返さなくてはいけない。借金の返済が増えれば子育て支援など他の行政サービスに回すお金も減ってくる。そのしわ寄せを受けるのが僕たちや子供たちだ。大変厳しい選挙になると思うけど覚悟はできたよ。みんなの力を僕に貸してもらいたい!」甘木は同級生の前で深々と頭を下げた。
「甘木、頑張れよ!」会場のあちこちから拍手と声援が沸き起こった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者