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小説「廃屋の町」(第16回)

2017年5月27日ニュース

 東京スカイツリーが建っている墨田区は甘木たち家族が東京に居た頃に住んでいた町だ。学生時代に両親が借りてくれた2LDKのマンションに家族3人で暮らしていた。2泊3日の家族旅行の宿泊先はこのマンションに近いところにあるシティーホテルを予約した。
 開業間もない東京スカイツリーのチケット売り場には長蛇の列ができていた。雄一たちは、会場整理をしている係りの人にインターネットで購入した日時指定券を提示したら別の窓口に案内された。
 チケットと交換した「シャトル搭乗券」を持って搭乗時刻を待った。間もなく指定された時刻となり展望デッキ行きのエレベータ(シャトル)に乗り込んだ。エレベータの扉が静かに閉まり上昇し始めた。全く揺れを感じることなくわずか1分足らずで地上から350メートルにある展望デッキに到着した。展望デッキは3階構造になっていて上りのエレベータは最上階に着く。展望デッキからは360度のパノラマが展開し、眼下に広がる東京の街並みが一望できる。
「お父さん、あそこに見える建物って、私たちが住んでいたマンションじゃない?」
「そうだね。僕たちが住んでいた町が見えるね」
「残念だわ。富士山が見えないわ、お父さん。あそこに赤と白のツートンカラーの鉄塔が建っているわ。東京タワーでしょう?」
「そうだね。スカイツリーができるまでは東京タワーが日本一の鉄塔だったんだ」
 甘木は中学校の修学旅行で初めて東京に来た時に東京タワーに上ったことを思い出した。地上から150メートルの大展望台から見えた、宝石箱のような東京の夜景が今でも忘れられない。
 雄一たちは展望デッキの3階から2階、1階へと降りて下りのエレベータに乗った。地上にある商業施設「東京ソラマチ」でお土産品を買った後、スカイツリーを後にした。
「少し回り道になるけど、ホテルに行く前に私たちが住んでいたマンションを通っていかない?」
 由紀子が言った。
「いいよ。ホテルに帰る途中だしね」雄一が応えた。
 マンション近くにあるホテルを甘木たち家族の宿泊先に選んだのは由紀子の提案だった。葛飾区に生まれ育った由紀子にとって、下町情緒が残る墨田区での生活は懐かしいのだろう、と雄一は思った。
 3人はマンションの前で立ち止まって見上げた。
「お母さん、私たち、5階の部屋に住んでいたんだよね」
「そうよ、私たちが住んでいた部屋は517号室だったわ」
「もしかして、田沼市長の甘木雄一さんじゃないですか?」
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者