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小説「廃屋の町」(第12回)

2017年5月19日ニュース

 発注担当係長の野上が起案した災害復旧工事の稟議書が内藤課長の席に回ってくると、内藤は、稟議書に記載されている予定価格をメモし一覧表を作成する。内藤は予定価格が記入された一覧表を茶封筒に入れて野上に渡す。野上は茶封筒を建設業協会の須藤局長に届ける。このような方法で、発注者側の市から受注者側の建設業協会に予定価格が漏れていた。
 田沼市が発注する災害復旧工事で入札談合が行われているとの匿名情報が公正取引委員会と長野県警捜査二課に寄せられた。公取委は独占禁止法第三条で禁止されている入札談合の疑いで行政調査を開始したが嫌疑不十分として調査を終えた。
 一方、県警捜査二課は田沼署と合同で、「談合罪」(刑法九六条の三)の疑いで捜査を始めたが、発注側から受注者側への入札情報の提供があったことをつかんだことから、捜査方針を贈収賄罪に切り替えて、内偵した結果、公共工事を発注する立場にあった建設課長補佐の野上昭一を収賄容疑で逮捕した。野上が発注担当係長をしていた頃に建設業協会事務局長の須藤紀夫に災害復旧工事の予定価格を事前に漏らし、謝礼として現金を受け取ったという容疑だ。なお贈賄側の須藤に対しては三年の公訴時効が成立していた。
 身柄を検察庁に送られた野上は、検察官の取り調べに対し、予定価格の漏えいは上司の内藤隆志課長の指示を受けて行ったもので、入札情報の漏洩には甘木富雄市長はじめ市役所の上層部も関わっていると主張したが、甘木市長や内藤課長ら市の上層部の関与は確認できず不起訴処分となった。

 収賄容疑で起訴された野上は懲戒免職処分を受けて公務員の身分をはく奪された。裁判では井上が懲戒免職処分を受けたなどの社会的制裁も考慮され、執行猶予の付いた懲役三年の有罪判決となった。野上昭一は妻の聡子と離婚し田沼市を離れ消息を絶った。
 長男で高校二年生の治夫は田沼市内の県立高校を中退し単身で上京し、都内にある倉庫会社に就職しながら定時制高校に通った。聡子は知的障害のある長女の洋子を連れて群馬県藤富市で農業を営む兄夫婦のもとに身を寄せた。聡子は生計を立てるため近くのスーパーでパートの職を得たが、心労と将来を見通せないなかでの不安が募り精神疾患に罹った。
 藤富市に移り住んで三年目。将来を悲観した聡子は娘の洋子を道連れにして近くの川で入水自殺を図った。母聡子と妹洋子の葬儀は治夫と伯父夫婦らの親族だけで執り行われた。野上治夫二十歳。城南大学文学部(二部)に入学した年の出来事であった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者