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小説「廃屋の町」(第10回)

2017年5月15日ニュース

「野上君、災害復旧関連の事業予算は青天井だ。これからどんどん復旧工事の発注が増えてくるぞ。発注予定の工事を一覧表にしたものを急いで作成してもらいたい。一覧表を作成したら一部は建設業協会の須藤事務局長に届けてもらいたい」
 建設課長の内藤隆志が発注担当係長の野上昭一に指示した。
 田沼市が発注する公共工事は、日常的に官製談合が行われていた。市では例年、正月明け頃から新年度予算の編成作業が始まる。予算編成作業が終わり、新年度予算案が固まった二月中旬に、新年度に発注する公共工事が「公共工事の発注見通し」として、工事名・施工場所・施工期間・工事種別・工事の概要・概算事業費・入札及び契約方法・入札予定時期が記載された一覧表が建設業協会に届けられる。
 建設業協会では、市から提供されたこの一覧表をもとに、落札予定業者と形だけ入札に参加する業者を事前に決めておく。入札が近くなると、市から極秘裏に示された予定価格をもとに、落札予定業者が札に書き入れる金額と形だけ入札に参加する業者が札に書き入れる金額が記入されたメモが入札参加業者に渡される。
 内藤課長から指示を受けた野上は、災害復旧工事の発注見通しの一覧表を作成し建設業協会に向かった。野上は事務局長の須藤紀夫に一覧表を渡した。須藤は田沼市の元建設課長で内藤課長の前任者だ。須藤は野上が建設課に異動になった頃の上司であった。

 須藤は野上から受け取った一覧表をさーと眺めた後、
「野上君、急がせて済まなかったね。復旧工事の発注業務で多忙を極めているそうじゃないか。内藤課長から聞いたよ。こんなことを言うと罰当たりになるかもしれないが、今回の地震は我々建設業界にとっては特需だよ。今回の地震のおかげで我々建設業界は息を吹き返したよ。新幹線や高速道路の建設工事、それに伴うリゾートマンションや商業施設の開発など大型の開発事業が、最近めっきりと減ってしまった。今回の地震は青息吐息の我々建設業界を救ってくれたよ。君も知っているように、建設産業は関連産業を含めると裾野が広い産業だ。また建設産業に携わる人間も多いので、地元の雇用にも貢献している」
 須藤は話を続けた。
「これも内藤君から聞いた話だが、君の家も今回の地震で被害を受けたそうじゃないか。地震保険に入っていなかったんだって?半壊程度だと災害見舞金だけでは足りないね。まだ住宅ローンも残っているそうじゃないか。それに来年の春に高校に入学する治夫君の進学準備にも何かとお金が要る時期だしね。日頃、お世話になっている野上君だ。この度の復旧工事の件でもお手数を掛けることになるがよろしく頼むよ」
 須藤は抽斗から茶封筒を取り出して野上に渡そうとした。
「これは受け取れません」野上は茶封筒の受け取りを拒否した。
「今の君には何かとお金の要る時期だろう。これは当面のつなぎ資金だ。取っておきたまえ」
 須藤は茶封筒を野上の作業着のポケットに突っ込んだ。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者