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ゾンビに襲われた街(寓話)

2016年1月5日トピックス

 

 201X年。ここは北欧のとある田舎町である。冬のこの時期は夜が長く昼が短い。太陽が水平線近くを一周する日もある。そんな日は薄暗い中で人々の生活が始まり一日が終わる。12年程前からこの町に異変が起きた。冬の時期、満月の夜になると寝室から子どもが突如いなくなるという。街の人のうわさ話では、墓地に埋葬された棺に入った死人が生き返って地上に這い上がり、夜の街を徘徊しながら寝ている子どもを襲っては食べているという。この町では子どもが年々減り続けている。

 今夜は満月の夜だ。深夜0時を告げる教会の鐘が鳴り始めた頃、郊外にある墓地の一角が突然盛り上がり土の中から地上に向かって手が伸びてきた。次に、ほほが削げ落ちた13体のゾンビ(死人)がはい出してきた。女の姿をしたゾンビもいる。「腹が減った。生きた人間の肉が食べたい、生きた人間の血が飲みたい。」墓地からはい出した13体のゾンビは生きた人間の肉を求めて街に向かった。

 最初に襲われたのが町議会の議員たちだ。いびきをかいて気持ちよさそうに眠っている長老議員のジョージがゾンビの最初の餌食になった。ジョージの顔にゾンビの手が伸びた。ガブ。「何だこれは。骨と皮ばかりで食べるところがないじゃないか。」次に襲われたのが議長のダンプだ。ダンプの肉を食べ始めたゾンビはこうつぶやいた。「げ―。臭みのある肉だ。とても食えたものではない。」20人の議員を襲ったゾンビが向かった先は、町長のトミーの家だ。トミーの肉を食べたゾンビはこうつぶやいた。「この肉もまずいが、生きた人間の肉を食べないとわしらは生きていけない。しかたがない。我慢して食べるか。」

 生きた人間の肉を食べたゾンビは、食べた人間の姿に変身するため、街の人々はゾンビの存在に気が付かない。しかも人間の姿に変身したゾンビは食べた人間の余命の間、人間の姿で生きていける。人間としての余命が切れる頃になると、ゾンビは更に寿命を延ばそうと、歳の若い人間、すなわち子どもを襲うようになる。子どもの肉を食べたゾンビは、子どもの余命が追加されるために寿命が飛躍的に伸びる。ゾンビが子どもの肉を食べても子どもの姿に変身することはない。最初に食べた人間の姿のまま寿命だけが延びていくのである。この町には200歳を越える老人が多いという。街の人たちは老人の姿に身を変えたゾンビに気がつかない。

 まもなく余命が切れるゾンビが向かった先は、7歳と5歳の子どもがいるロバートの家だ。兄のヘンゼルは小学校の1年生、妹のグレーテルは幼稚園児だ。遊び疲れた二人の兄妹は、子ども部屋ですやすやと寝息を立てて眠っている。子ども部屋の窓が静かに開けられ、ゾンビの白い手が子どもたちに伸びていく。「子どもたちが危ない!」こう叫んで、ロバートは目が覚めた。「あー。夢だったのか。」シーツは汗でぐっしょりと濡れていた。心配になったロバートはベットから起き上がり、子どもたちの寝室へと向かった。部屋のドアを開けたロバートは月明かりのなかで寝入っている子供たちの姿を見て胸をなでおろした。ロバートは布団からはみ出たヘンゼルの体を元に戻して部屋に戻った。しかし、ロバートはヘンゼルの体に現れた小さな変化に気づかなかった。ヘンゼルの首筋に小さな噛み傷があることを……
(柊 三郎)

posted by 地域政党 日本新生 管理者