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小説「強欲な町」(第3回)

2018年3月9日ニュース


[マモン コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より]

 9月16日付けの富山毎日新聞の一面には「リーマン・ブラザースが経営破綻!負債総額、約6000億ドル(約64兆円)!米金融市場がマヒ、世界的金融危機に発展か!」という見出しで、次の記事が掲載された。
 米証券4位のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが9月15日に米連邦破産法の適用を申請した。リーマン・ブラザーズは、破綻の前日までアメリカ合衆国財務省や連邦準備制度理事会(FRB)の仲介の下でHSBCホールディングスなど複数の金融機関と売却の交渉を行っていたが、米政府が公的資金の注入を拒否していたことから身売り交渉は不調に終わった。
 リーマン・ブラザーズが経営破綻した2008年(平成20年)9月15日(月)は、日本では敬老の日で休日だった。リーマンの経営破綻は取引が始まった翌日16日の東京株式市場に影響が出た。その日の日経平均の終値は前日比605円4銭円安の11,609円72銭で、下落率は4.9%。1日の下落率としては歴代の20位にも入っていなかったが、これが歴史的な暴落の始まりとなった。

「大丈夫かな?」
 リーマン・ブラザースの経営破綻を報じた富山毎日新聞を読んでいた田沼市長の井上将司は呟いた。
「大丈夫かなって、あなた、一体何のことですか?」
 朝の食卓で、井上と向かい合わせに座っている妻の君子が尋ねた。
「私が入っている保険のことだよ。君の友人で、保険の外交員をやっている森田さんね」
「全国生命の森田由美子さんのことですか?その森田さんがどうかしましたか?」
「森田さんから勧められて入った生命保険って、確か変額保険だったよね」
「はい、そうですが。それがどうかしましたか?」
「変額保険って、元本割れのリスクがある保険じゃなかった?」
「確かに、運用成績が悪いと、満期に受け取る保険金は基本保険金の1億円を下回ることもありますが、死亡した場合に受け取る保険金の方は1億円が保証されているので、大丈夫ですよ。逆に、運用が良ければ1億円以上の保険金が支払われますが…」
「私が死んだ場合の保険金を受け取るのは、君だろう?」
「はい、受取人は私になっていますから、そういうことになりますが…」
「そんなことは分かっているよ。私が心配しているのは、満期になった10年後に私が受け取る保険金のことだよ。森田さんに勧められ、日本と外国の株式で運用するタイプを選んだけど、リーマン・ショックの影響で運用成績が落ちてくるんじゃないかと心配しているんだよ」
「今、森田さんから勧められて入ったとおっしゃいましたが、『ハイリスク・ハイリターン』の商品を選んだのは、他でもないあなたご自身じゃなかったですか?」
「確かに、長期に亘って運用すればリスク以上に大きなリターンが得られると言われ『トリプル・リターン』を選んだのは私だが…」
 変額保険は、顧客から預かった保険料(資産)を主に株式や債券などの有価証券に投資し、資産の運用実績に応じて、受け取る保険金額が変動する金融商品だ。運用が良ければ受け取る保険金が増え、悪ければ保険金が減る仕組みになっている。しかし被保険者が死亡した場合に受け取る保険金は、運用実績が悪くても契約時にあらかじめ決めた基本保険金が支払われる。
 一方、運用が好調な場合は基本保険金額を上回る死亡保険金を受け取ることができる。運用実績に関係なく保険金額が保証されている定額保険と違って、変額保険の運用リスクは契約者自身が負うことになっている。日本では、保険審議会の答申を受けて、昭和61年10月から、生保最大手の「全国生命」が初めて変額保険を発売したのを機に、順次、他の生保も変額保険の販売を始めた。
 井上が契約した変額保険は、死亡・高度障害保険金(基本保険金)を1億円として、保険料は年払いで200万円に設定された全国生命の主力商品「トリプル・リターン」だ。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者