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小説「廃屋の町」(第130回)

2018年1月10日ニュース

 17日から始まった選挙戦は23日に終わった。また18日から始まった期日前投票も22日に終了した。
 24日の日曜日。午前7時から市内70か所の投票所で投票が始まった。甘木雄一は入場券を持って、妻の美由紀、娘の春香と一緒に近くの投票所に出掛けた。甘木の家族が投票所に入ると、受付窓口に作業服を着た数人の若者が並んでいた。受付担当の市役所職員が首を傾げながら入場券と選挙人登録名簿をチェックしていた。作業服で投票所に来るなんて、日曜日でも仕事が入っているんだろうか、と甘木は思った。
 投票を済ませた甘木は家族3人で、自宅近くのレストランに出掛け食事をした。
「あなた、一週間、お疲れ様でした」妻の美由紀が雄一に労いの言葉を掛けた。
「君こそ、留守中、苦労を掛けたね」雄一が言った。
「お父さんの顔が日に焼けて真っ黒よ。お父さんは絶対に当選するわよ!私、昨日の夜、お父さんが当選して万歳している夢を見たわ!」春香が笑って言った。
「ありがとう!春香。お父さん、嬉しいよ!」雄一は春香の言葉に勝利を予感した。
 家族との食事を済ませた雄一は午後から事務所に出掛けた。事務所では風間と久保田が開票結果を待つ会場づくりを始めていた。
「ご苦労さまです」
 甘木も会場づくりを手伝った。中央の神棚に向かって右側に子育てグループからプレゼントされた必勝千羽鶴が飾られた。
 午後8時、市内の70か所で行われた投票が終了した。投票箱は施錠され市の中央体育館に運ばれた。午後9時、最初に期日前投票の投票箱が開錠された。開錠され投票箱から投票用紙が取り出され、色分けされたコンテナ箱に仕分けされていった。
 午後9時、甘木は事務所に入った。家では美由紀と春香が吉報を待っている。事務所には風間、久保田など同級生50人程が集まって開票結果を見守った。
「中央体育館で開票状況を見守っている小島からの連絡では、期日前投票は井上陣営が得票数を伸ばしているそうだ」選対本部長の風間が言った。
「ええ!」事務所内に動揺が走った。
「大丈夫かしら?」久保田が心配そうに言った。
「大丈夫だよ。期日前投票は業界団体や宗教団体などの組織票が多い。こういう展開になることは最初から分かっていたよ。想定内だ」風間は落ち着いた様子で答えた。
 最初リードしていた井上陣営の得票数であったが、投票日当日の開票作業が始まると二人の票差が徐々に縮まってきた。事務所の時計は午後11時を回っていた。
 午後11時半過ぎ、「田沼市長選挙 甘木雄一氏当選確実」のテロップがテレビに流れた。
「万歳!万歳!」選挙事務所の中は拍手喝采に包まれた。一時間後、二人の得票数が確定した。
 甘木雄一 32432票 当選
 井上将司 31675票
 票差が757票と僅差での勝利だった。事務所の時計は25日午前零時半を回っていた。
「甘木、当選おめでとう。頑張ったね。市長選勝利はゴールではなくスタートだ。気を付けるんだ。君の行く先は魑魅魍魎が住む伏魔殿だ。君の掲げる市政改革を阻止しようと、手ぐすね引いて待ち構えている輩がいる」たぬま新報編集長の高橋が言った。
 翌日、長野県警捜査二課と田沼署は、公職選挙法違反の買収(供応接待)容疑で、井上事務所と建設業協会事務所など、関係先の家宅捜査を行った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者