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小説「廃屋の町」(第126回)

2018年1月2日ニュース

 3月の第一水曜日に部課長会議が開催された。冒頭、井上市長の挨拶があった。
「職員の皆さん。おはようございます。役所の師走は年度末の3月です。今年度事業予算を滞りなく執行していただきたいと思います。また新年度予算案につきましては、例年になく皆さんにご尽力をいただき無事に編成することができました。皆さんにご苦労をお掛けして作った新年度予算案が9日から始まる市議会3月定例会に上程されます。4月の市長選挙はまさにこの新年度予算案に盛り込まれている主要事業、政策が争点になると言われています。新年度予算案には文化会館と総合体育館の設計業務委託費が計上されています。2年後に迎える合併10周年を10万人の市民が心を一つにして祝うことが、これからの田沼市が前進する上で大事なことではないかと考えています。そして、これからの田沼市にふさわしい象徴的な、そして田沼市の輝ける未来を創造するためにも、文化会館と総合体育館の建設が必要だろうと考えています。職員の皆さんからは特段の御理解と御協力を頂けるものと信じています。……」
 井上市長の挨拶が終わった後、中山邦夫総務部長が口を開いた。
「今ほど市長から、4月の市長選挙は新年度予算案に盛り込まれている主要事業、政策が争点になるというお話があったわけですが、この点について、私から補足説明をさせていただきます。皆さんの職場で担当者が市内の関係機関に業務連絡する際に、『4月の市長選挙には井上市長をよろしくお願いします』と、最後に一声を添えて頂きたいと思います」
「これって公務員の地位利用による公職選挙法違反(法136条の2違反)じゃないか」
 中山部長の話を聞いていた財政課長の杉田昇はつぶやいた。
 部課長会議を終えて席に戻った建設課長の佐々木健一は、係長の横田紀夫を呼んで入札室に入った。二人が入った後、入札室のドアが閉められた。
「横田君、君に頼みたいことがあるんだ。これは来年度の公共工事の発注見通しの一覧表だ。君も分かるとおり、田沼市が発注する土木工事は、原則、市内に本社を置いている建設業者に限定している。この一覧表の備考欄に業者名が入っているが、これは受注業者が内定しているという意味だ。この件については建設業協会の山田会長も了解済みだ。そこで君にお願いしたいのは、この一覧表に載っている受注内定業者の担当者に連絡を取ってもらいたいんだ」
「課長、私が業者に電話をして何を話せばいいですか?」
「業者に電話したら、担当者に『この工事はオタクにやってもらうことになりましたので、お知らせします。この件については井上市長も了解済みです』って言ってもらいたいんだ」
「ええ!まだ入札をしていないのに、もう施工業者が決まっているんですか?それって官製談合じゃないですか?」
「横田君、余計なことを考えなくてもいいよ。君は私に言われたとおりのことをすればいいんだ。それと、この一覧表は外部だけでなく内部にも絶対に流失しないよう厳重に管理して欲しい。用が済んだら一覧表は廃棄して欲しい」
「建設業協会に天下る佐々木課長の持参金かよ」
 入札室を出た横田は不満げにつぶやきながら席に戻った。
 4月上旬、産業建設部長の関口博が観光振興課長の木下信行を部長室に呼んだ。
「失礼します」木下は一礼して部長室に入った。
「実は、木下さんに頼みたいことがあるんだ」
「部長、何でしょうか?」
「実はね、市長選挙の告示日に瓢箪池の駐車場を出陣式の会場に使いたいという話が、井上市長からきているんだけど、何とか便宜を図ってもらえないだろうか?」
「この時期は、瓢箪池の桜を見に来る観光客もいますし、それに団体客を乗せた観光バスも立ち寄ります」木下は困惑した顔つきで答えた。
「出陣式には国会議員、県議会議員、周辺市町村長など御歴歴が大勢集まる。市が管理する広い場所はあそこしかない。それに出陣式に使うのは朝の8時半から1時間ほどだ。花見客がまだ来ない時間帯だし。木下さん、頼むよ」
「分かりました」木下は渋面で返答した
「無理が通れば道理が引っ込むか」木下は呟きながら席に戻った。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者