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小説「廃屋の町」(第71回)

2017年9月14日ニュース

 1月下旬、田沼市役所の財政課では、新年度の当初予算編成作業が大詰めを迎えていた。新年度当初予算案は3月上旬に始まる市議会の3月定例会で審議される。
「杉田課長、新年度予算案がまとまったので、これから説明したいのですが、よろしいですか?」
 予算係長の坂井盛男が財政課長の杉田昇に言った。
「大丈夫だよ」杉田は答えた。
 二人は課長席前のテーブルに向かい合わせで座った。杉田の隣に課長補佐の佐野俊樹が、坂井の横には予算係主任の杉本弘樹が着席した。
「それではお願いします。最初に一般会計当初予算案から説明します。予算総額で471億円になります。前年度対比で10.5%の増加です。歳入で見ますと、市税121億円。前年度対比で2%の増加です。地方交付税が125億円。前年度対比で7%の増加です。市債(借入)が57億円と大幅に増えています。前年度対比で37%の増加です。また国・県支出金(補助金)が78億円と、こちらも増加しています。前年度対比で10%の増加です。次に、歳出の方ですが、普通建設事業費(公共事業費)が90億円で大幅に増加しています。前年度対比で35%の増加です。公債費(借入金の返済額)は52億円と微増です。前年度対比で4%の増加です。次に、主要事業では……」
 予算係長の坂井と主任の杉本が交代で、新年度予算案の概要を説明した。
「選挙の年になると公共事業予算が大幅に増えてくるね。4月の市長選と県議選、それに10月の市議選と知事選。年に4回も選挙がある今年は『選挙イヤー』だけど、我々財政課にとっては『嫌な年』だよ」杉田は皮肉っぽく言った。
「そうですね。新規事業の多くは選挙を意識した公共事業です。新規事業では、教育関係で、田沼第一中学校増築・大規模改修事業費として3億7000万円が計上されています。健康推進関係で、総合体育館整備事業費(設計業務委託)として5700万円が計上されています。文化教養関係で、文化会館整備事業費(設計業務委託)として6300万円が計上されています。更に、支所庁舎の耐震化・大規模改修事業費として7億4000万円が計上されています。継続事業では、生活関係の消雪パイプ整備事業費として8億7000万円、住宅リフォーム助成事業費として1億2000万円、国道バイパス接続市道整備事業費として5億3000万円がそれぞれ計上されています」坂井が言った。
「坂井さん、今、説明のあった公共事業は合併特例債を使ってやるんでしょう?」杉田が尋ねた。
「もちろん、そうです。国が返済額の7割を負担してくれる合併特例債を使わないと、これらの公共事業の実施は無理ですよ」坂井が答えた。
「借金返済の財源補てんが手厚い合併特例債を使えば、返済財源となる地方交付税は増えてくるよね」
 杉田が言った。
「当然、そうなります。歳入科目の市税と地方交付税について、対前年度比を比較すると、市税は2%しか増加していませんが、交付税の方は7%も増加しています」坂井が答えた。
「地方交付税は、本来、基本的な行政サービスに必要な財源を確保するための財源だろう?市税と同じように、一般財源として自由に使えるはずの地方交付税だけど、実際は借金返済に回っている分があるんだよね。一体、どれくらいあるんだろうか?」杉田が言った。
「そうですね。来年度の公債費は52億円で見積もっていますが、3分の2は地方交付税で賄っています」坂井が答えた。
「へえ!そんなにあるの。驚いたね。52億の3分のは約35憶か。来年度の地方交付税が125億円だから、125億のうち35億は借金の返済に回さなくてはならないってことか。使い道が自由な地方交付税とはいっても、3割近くは借金返済に使われているんだね」
 杉田は電卓を叩きながら話を続けた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者