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小説「廃屋の町」(第41回)

2017年7月18日ニュース

「さっき話した圃場整備事業だよ。この事業によって大きな区画になった田んぼが、簡単に転用されてしまうことがあるんだ」
「転用って何ですか?」風間が尋ねた。
「農地を農地以外の用途に変えてしまうことだよ。土地改良事業の事業費は、農家負担以外は全て税金で充てられている。圃場整備事業で大きな区画になった田んぼは、8年間は転用できないことになっているが、公共事業用地として買収されると8年間の縛りがなくなるんだ。農家にとっては農地のままで売るよりも、公共用地として売った方が高い値段で売れるし、税金もかからない。いいこと尽くめだ。自分では耕作しないで農地を持っているだけの『土地持ち非農家』のなかには、将来、公共事業用地として転用されることを期待して農地を持っている農家もいるよ」
「興味深いお話を伺いました。多額の税金を使って美田を作っておいて、その美田を多額の税金を使って、公共事業用地として買収されて転用される。多いなる税金の無駄遣いですね」甘木が言った。
「そういえば、昨年、竣工した市立病院は田んぼを埋め立てて建設したんじゃなかったかな」
 風間が言った。
「思い出したよ。あの場所は圃場整備事業によって4反歩(約40アール)区画の田んぼに整備された優良農地があった場所だよ。事業が終わってまだ5年しか経っていないので、公共用地といえども転用はできない農地だったんだ。それが例外的に県から転用の許可が下りたんだよ。聞いた話だけど、病院建設用地として買収された田んぼの多くは、田沼市土地改良区の松本正蔵理事長が所有する田んぼだったらしいよ」
「え、え!ほんとうですか?山田県議が県に圧力をかけて、本来であれば転用できない農地に対して無理やり県の許可を出させたんじゃないですか?我々が支払った税金で私腹を肥やすなんて許せないね!井上市長は選挙公約で、文化会館と総合体育館の建設を目玉事業として挙げるらしいけど、建設予定地は高速道路インター付近の農地だって噂が流れているよ。市立病院の用地買収の時みたいに、何かきな臭い匂いがするよ」風間が言った。
「最後に一つ、甘木さんに検討してもらいたいことがあるんだ」
「それはどんなことですか?」
「農家の後継者対策だよ。昔の農家は、夜が明けると朝飯前に田んぼに出掛けて仕事を始め、朝飯を食べた後、また田んぼに出掛けて行って、日が暮れるまで仕事をしたもんだよ。田植えや稲刈りの時期になると、昼の弁当を持って、朝から日が暮れるまで田んぼで仕事をしたもんだ。私は小さい頃から家の手伝いをしながら、親の背中を見て育った。だから、自然と自分は農家の後継ぎになるんだって思うようになって、農業高校を出た後、家に入って農業を継いだよ。しかし、今の若いもんは、家業よりも会社勤めの方を選ぶ。二人の息子も農家は嫌だって言って会社勤めを選んだ。今は、家に残っている娘から手伝ってもらっている。ゆくゆくは婿養子をもらって農家を継いでもらいたいと思っているよ。甘木さんには期待しているよ。是非、市長になって我々専業農家のための農政をやってもらいたいと考えているよ」
「町場の商店主からも後継者が見つからないという話は伺いました。後継者難から廃業に追い込まれる中小零細な事業者が多いという話はよく聞きますね。農業であれ、商工業であれ、個人経営の事業者は、みんな後継者不足に悩んでいることが良く分かりました。今ほど頂いたご意見は、市長選に向けた政策に反映させたいと思います。お仕事中、時間を割いて頂きありがとうございました」
 甘木と風間は農家に礼を言って、次の目的地に向かった。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者