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小説「廃屋の町」(第129回)

2018年1月8日ニュース

 甘木を乗せた選挙カーは、午前8時から午後8時までの12時間稼働し、市内を隈なく細かく回った。甘木は随所に街頭演説を入れた。街頭演説では、お年寄りに優しい安心して暮らせるまちづくり、寂れてしまった農村集落や住宅街に子育て世帯を呼び込み賑やかなまちづくりを訴えた。また昨年8月下旬に田沼市を襲った台風による農業被害を取り上げて被害農家への市の救済措置が不十分だった点や選挙告示日前に予定されていた田沼市青年会議所主催の市長選挙公開討論会が井上陣営の一方的な参加拒否によって中止になったことについても言及した。
 庭仕事の傍ら手を振るおじいさん、家の中から手を振るおばあさん、田んぼ仕事や畑仕事の傍ら手を振る農家の人たち、幼児を抱きかかえながら手を振る子育て中の女性、散歩中に手を振ってくれた幼稚園児たち、歩道を走りながら手を振ってくれた小学生たち、ヘッドライトを点滅させて合図をする対向車線を走る車の運転手、甘木は確かな手ごたえを感じていた。
 一方の井上は、遠山選対部長の指示を受けて告示日の翌日から建設会社を中心に市内の事業所回りを始めた。告示日翌日から始まる期日前投票による票を集めるためだ。井上と建設業協会事務局長の佐々木健一を乗せた車が市内の建設会社を巡回した。石井組の事務所に着いた二人を社長の石井伸晃が出迎えた。
「ご苦労さまです。さあ、どうぞ、こちらに」石井は二人を社長室に招き入れた。
「昨日は石井社長さんはじめ社員の方から休日にもかかわらず出陣式にご出席をいただきありがとうございました。期日前投票が始まる今日から事業所回りを始めています。社員の方に期日前投票に行ってもらいたくお願いにまいりました。これは出陣式と期日前投票の足代ですのでお受け取り下さい」
 佐々木は現金の入った茶封筒を石井に差し出した。
「分かりました。わたしから社員にお願いしてみます」石井はすぐさま茶封筒を胸ポケットに入れた。
「先月、協会から届いた文書に、今年度ウチに発注する市の公共工事が載っていましたが、あれはほんとうなんですか?」石井が佐々木に尋ねた。
「もちろんほんとうです。私が市長になれば石井さんのところでやってもらう仕事ですよ」
 井上は答えた。
「分かりました。会社挙げて井上市長を応援します」石井は答えた。
「よろしく、お願いします」井上は石井に頭を下げた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者