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小説「祭ばやし」(第13回)

2017年2月6日ニュース

 午後3時頃。徹たち5人は再び公園に向かった。公園には法被を着た囃子方の小中学生が集まっていた。
「お父さん、写真撮って」
 紅い法被を着た春香が紅白の布や提灯などで飾られた山車の前に立って、両手を上げてVサインを作った。
 カシャー
 徹のスマホが春香の得意ポーズをとらえた。
 公園には山車を引くために参加した子供と母親も集まっていた。青い法被を着た男の子や赤やピンク色の法被を着た女の子だ。頭にはねじり鉢巻き、上は法被に、下は白い短パンと白足袋を履いたお祭り衣装に身を固めた女の子もいる。山車が出発する前に、神楽舞の一行が公園にやって来て獅子舞と剣舞を披露した。獅子頭に頭を食まれ泣き出した幼子もいた。3時半過ぎ。予定時間を少し遅れて、仁和加(にわか)がゆっくりと公園を出発した。
 ピーシャラ ピーシャラ
 ドドンコ、ドン ドドンコ、ドン
 トコトン、トコトン
 チンチン、カンカン
 囃子方の演奏が始まった。山車に乗った春香が樽太鼓を叩いている。バチさばきが昨日よりも滑らかに見える。徹ら4人は山車の前から出た二本の手綱を握って、山車を引っ張った。
 ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ
 山車が巡行する沿道では近くに住む人が通りに出て山車を見物している。小さな子供を抱いた母親の姿が見える。孫の手を握ったお年寄りの姿も見える。
「仁和加(にわか)を止めてください。ここでちょっと休憩を入れます」
 祭典委員の佐々木さんが号令を掛けた。参加者に氷菓子が振る舞われた。囃子方の子供たち、山車を引く子供たちや大人たち、沿道の見物客にアイスキャンディーが配られた。徹も1本もらって口に入れた。喉を通過して胃袋に入った氷菓子が熱くなった徹の体を冷ました。徹はアイスキャンディーを食べながら子供の頃に過ごした夏休みを思い浮かべた。
 発泡スチロール製のクーラーボックスを自転車の荷台に積んで氷菓子を売りに来た麦わら帽子のおじさんだ。麦わら帽子のおじさんは、チリン、チリン、チリンと、手に持った鉦を振りながら集落の中を回る。まだ、家々にクーラーが普及していなかった頃で、暑い部屋の中を少しでも涼しくしようと縁側の戸を開けっ放しにするが、涼風が途切れ途切れに入ってくる程度だ。代わりに麦わら帽子のおじさんが鳴らす鉦の音が、風鈴の音色のように涼感を運ぶ。テレビを見ながら、うたた寝をしていた徹は祖母からもらった小銭を持って道路に出た。おじさんにお金を渡して、棒の付いたアイスキャンディーや凍ったジュースが入ったチューブをもらって口に入れた。まだ冷蔵庫が普及していなかった頃に、氷菓子を食べて酷暑をしのいだ思い出の1シーンだ。
 休憩が終わって仁和加(にわか)がゆっくりと動き出した。町内を巡行した山車は1時間ほどかけて公園に戻ってきた。本部テント前で山車の帰りを待っていた祭典委員長の挨拶が終わった後、祭りに参加した子供たちに、ご褒美のお菓子が配られた。お菓子の入った袋をもらった春香と英人君、浩司君は大喜びだ。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者