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小説「廃屋の町」(第13回)

2017年5月21日ニュース

 市議会の6月定例会を終えた甘木雄一は、ハッピーマンディーの海の日を入れた3連休を使って、東京で家族旅行を楽しんだ。甘木と妻の美由紀、娘の春香を乗せた新幹線が午前11時半に上野駅に到着した。
「私、お腹がペコペコよ。お母さん、お昼は何を食べるの?」春香が美由紀に尋ねた。
 駅の構内にある大きな掛け時計が間もなく正午を告げようとしていた。
「春香の好きなハヤシライスを食べる?」美由紀が提案した。
「もしかして、上野公園にある蓬莱軒のハヤシライスのこと?」
「そうよ。東京に住んでいた頃、3人でよく食べに行ったわね」
 ハヤシライスは蓬莱軒が上野公園に開業した当時からある看板メニューだ。甘木の家族が上野公園に遊びにくる時は、お昼は蓬莱軒のハヤシライスを食べることが多かった。
「お母さんがお家で作ってくれるハヤシライスも美味しいよ」
「春香、ありがとう。悔しいけど、市販のドミグラスソースを使って作った我が家のハヤシライスでは、蓬莱軒のような味と香りは出せないわ」
 ハヤシライスは春香の好きなメニューの一つだ。春香のリクエストを受けて、美由紀が時々作ってくれる甘木家の定番料理だ。上野駅の中央出口を出た3人は上野公園にある蓬莱軒に向かった。
 3人がレストランに着くと入口には長い列ができていた。係りの人に待ち時間を聞くと、一時間近くになるとの返事だった。東京に住んでいた頃は、時間を気にすることなく長い待ち時間を辛抱強く待っていることができたが、今回は雄一が市長に当選してから初めての家族旅行だったし、お昼を済ませた後は、上野動物園、浅草、東京スカイツリーに行くことになっていた。
「並んで待っている?今日はこの後の予定が入っているけど……。どうする春香?」雄一が尋ねた。
「今日はパスして、明後日、食べに来ようよ。今日は動物園のレストランでいいよ」
 3連休ということもあって、上野動物園は大勢の親子連れで賑わっていた。雄一たちは園内にあるファストフード店でお昼をとることにした。お昼時ということもあってテーブル席はどこも満席だった。やっと見つけた三人掛けのテーブル席を雄一が確保して、美由紀と春香はお昼を買いに行った。
 しばらくして、二人はお昼と飲物を載せたトレーを持って、雄一が待っているテーブル席に戻った。春香はハンバーガーとオレンジジュース、美由紀はサンドイッチと野菜ジュース、お任せで頼んだ雄一のお昼は焼きそばと紙コップに入った生ビールだった。雄一は手にした生ビールを、ゴクゴクと一息に飲み干した。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者