2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ブログ

小説「山田研一 ただ今 単身赴任中」(第11話)

2017年1月9日ニュース

由紀子と弥生が東京に来て3日目の朝。窓のカーテンを通過した朝日が研一たちの寝ている部屋を明るくした。
「あら、いやだわ。もうこんな時間。みんな起きて。」
布団から起き上がった由紀子が部屋の時計を見て、研一と弥生に言った。
「おはよう。いやー、よく眠れた。」由紀子の声で起き上がった研一が両腕を伸ばして言った。
「ええー、私はまだ眠たいわ。」弥生が目をこすりながら眠たそうな顔をして言った
「弥生。今、何時だと思っているの。もう8時過ぎよ。」
 昨日は午後9時半に社宅に帰り、就寝したのが11時頃だった。東京ディズニーランドで終日、立ちっぱなしで過ごした疲れが出たのか、3人は朝寝坊した。

 今日は日曜日。由紀子と弥生が新潟に帰る日だ。午前中、東京駅周辺で観光や買い物をした後、午後の新幹線で帰る予定になっている。朝食をとった後、研一たちは電車に乗って東京駅に向かった。駅のコインロッカーで由紀子と弥生の旅行鞄を預けた後、丸の内口から出た3人は皇居に向かった。普段は車が往来する日比谷通りだが、今日は歩行者天国になっている。広い道路でサイクリングを楽しむ若者やジョギングをする人たちが見えた。
 研一たちは日比谷通りを横断して皇居前広場に入った。皇居前広場の一番の人気はなんといっても伏見櫓を背景とした「二重橋」だ。ツアーガイドの女の人が手旗を持って観光客の一団を二重橋の方角に案内していた。研一たちも後に続いた。
 皇居前広場を歩きながら弥生が、「お父さん。皇居って天皇陛下が住んでいるお家でしょう。屋敷が広すぎてどこにお家があるのか分からないわ。」と研一に尋ねた。
「皇居は東京ドームの約25倍もの面積があるんだ。江戸時代に徳川幕府のお城、江戸城っていうんだけれど、その江戸城があった場所が明治時代になって皇居になったんだ。天皇、皇后両陛下が普段、住んでいるお家のことを『御所』と言うんだけど、ここからは見えないよ。」研一は答えた。
「こんなに広いお屋敷にたった二人だけで住んでいるの。」弥生が興味深そうに研一に尋ねた。
「広い皇居の中には、御所のほか宮中での行事や儀式に使われる宮殿、宮内庁や宮内庁病院、皇宮警察本部といった役所の建物もあるよ。これらの建物で勤務している人も沢山いるんだ。」研一が答えた。
「えー、そうなんだ。皇居って大勢の人たちが住んでいるのね。」弥生は納得した様子で頷いた。
二重橋の前では大勢の観光客が写真を撮っていた。
「すみません。シャッターを押してもらいたいんですが…」
研一は写真撮影を終えた3人グループの若者に声を掛けて、若者の1人にスマホを預けた。
「いいですか。」
カシャ
「もう1枚お願いします。」
カシャ
「ありがございました。」研一は、写真を撮ってくれた若者にお礼を述べた。

 東京駅に戻った研一たちは、丸の内駅舎をバックに写真を撮ることにした。丁度、研一たちが立っている場所で、駅舎に向けて写真を撮っていた年配の男性がいたので、研一はこの男性にスマホのシャッター押しを頼んだ。
カシャ
また1枚、年賀状用の家族写真ができた。
 丸の内駅舎は東京駅が誕生してまもなく100年を迎えることから保存復元工事が行われ、2012年10月に創建当時の駅舎が復元した。しかし駅舎の背後には創建当時にはなかった高層ビルが八重洲口方向に林立している。また夜間は駅舎がライトアップされ、首都東京の風格ある夜間景観を形成している。
 研一と弥生は由紀子の買物に付き合うため、丸の内ビルディングに入った。通称「丸ビル」はオフィスビルであるが商業施設としてフロアーもあるので、休日でも大勢の買い物客で賑わっている。丸ビル内のショップを見て回った後、今度は道路を挟んで向かい側に建っている「新丸ビル」に移動してショップを見て回った。
 3人は丸の内口から連絡通路を通って反対側の八重洲口にあるデパートに向かった。お土産などの買い物をした後、デパート内のレストラン街で昼食をとることにしたが、どの店の前にも長い行列ができている。3人は比較的空いている中華料理店に入って遅めの昼食をとった。八重洲口から駅の構内に入って、コインロッカーから2人の鞄を取り出して、上越新幹線のホームに向かった。程なくホームに入って来た帰りの新幹線のドアが開いて由紀子と弥生が乗り込んだ。ドアが閉まって新幹線が静かに動き出した。窓越しから弥生が研一に向かって手を振った。研一も手を振って応えた。
 研一は由紀子や弥生と過ごした週末の3日間を振り返り、東京の不思議な魅力を感じた。オフィス街に建つ歴史的な建造物と近代的な高層ビル群の醸し出す奇妙な調和、平日と週末にオフィス街を行き交う主役の交代など…。
 来週からはお盆の休暇も加わり土日も入れた5日間の長期休暇に入る。帰省すれば研一の誕生日のお祝いと弥生の夏休みの自由研究の手伝いが待っている。よし、明日からまた仕事に頑張るぞ。研一は自分にそう言い聞かせて、由紀子と弥生を乗せた新幹線が視界から消えるまでホームにたたずんでいた。(了)
(作 橘 左京)

【おしらせ】
小説「山田研一 ただ今 単身赴任中」は近日中に、加筆・修正の上、ライブラリーに収納します。

posted by 地域政党 日本新生 管理者