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小説「廃屋の町」(第78回)

2017年9月28日ニュース

 2月上旬、井上将司市長は、事務所に詰めている選挙スタッフに挨拶をした。
「おはようございます。市長の井上です。これまで公務に忙殺され事務所に足を運ぶことがなかなかできず、選対本部長の遠山議長さん始め、スタッフの皆さんに大変お難儀をお掛けしていることをお詫び申し上げます。告示日まで2か月ほどとなり、これから益々忙しくなってきますが、よろしくお願いします」
 井上陣営の事務所に詰めている選挙スタッフは、田沼市建設業協会加盟の建設会社から派遣された男性社員と宗教団体「六光学会」田沼支部の婦人部会員だ。建設会社から派遣された社員は選挙用の印刷物のポスティング業務を担当し、六光学会の婦人部会員はお茶出しなどの内勤業務のほか、印刷物の会員宅への配布を担当する。婦人部長の井上君子は井上市長の妻だ。六光学会は市長選挙では井上氏支持を表明している。六光学会田沼支部の会員数は3500人余りで、有権者総数の4・1%を占める。無視できない組織票だ。
 井上陣営の市長選挙向けの政策パンフレットが、数日前に事務所に搬入された。一面には井上将司市長の顔写真と経歴、市長としての3期12年間の実績が列挙されている。上段には「継続こそ力なり!市政の更なる前進を目指して!」こんなチャッチコピーが掲載されている。二面には公約にあたる政策が掲載されている。上段には「田沼市の輝ける未来を創造するための六つの光」というチャッチコピーが掲載され、新年度事業予算が6項目に分類され掲載されている。
一.子育て
〇子育て世帯の住宅建設・取得資金の助成…5800万円(新規)
〇保育料の無料化(第二子以降)…3200万円(新規)
〇子供の医療費助成(中学卒まで)…3500万円(拡充)
二.教育
〇田沼第一中学校増築・大規模改修事業…3億7000万円(新規)
〇小中学校施設の耐震化・大規模改修事業…12億9000万円(新規)
三.健康
〇総合体育館整備事業(設計業務委託)…5700万円(新規)
〇高齢者の人間ドッグ受診費用助成…2500万円(新規)
〇高齢者の体育施設使用料の免除…140万円(新規)
五.生活 
〇住宅リフォーム助成事業…2億2000万円(拡充)
〇消雪パイプ整備事業…8億7000万円(拡充)
〇国道バイパス接続市道整備事業…5億3000万円(新規)
〇公民館の耐震化・大規模改修事業…5億4000万円(新規)
〇支所庁舎の耐震化・大規模改修事業…7億4000万円(新規)
六.文化
〇文化会館整備事業(設計業務委託)…6300万円(新規)
〇まちなかコンビニ塾…1200万円(新規)

「井上市長、このパンフレットはよくできていますね。事業費を入れたことで、インパクトのあるものになっていますよ。我々会派の要望も入れてもらって、例年になく公共事業予算が増額になっています。子育て支援の事業予算もちゃんと確保されていて、子育て世代への配慮も忘れていませんね。原案は誰が考えたんですか?」井上陣営の選対本部長で市議会議長の遠山信一が尋ねた。
「原案は市長政策課長の吉野君が作ってくれました。彼は頭脳明晰な職員ですよ」井上が答えた。
「そうですね。吉野課長は議会事務局に議事調査係長として三年ほど在籍していたことがありましたが、ぴかいちの職員でしたよ。新人議員は彼に頼りきりで、初めて臨む市議会定例会で、一般質問の勘所について、親身になって相談に乗ってくれていましたよ」
「私も、時々、彼の頭を借りることがありますよ」
 市長政策課長の吉野昌夫は、井上市長の政策ブレーンとして重用されていた。同期入庁組の中で一番早く課長に昇進した。庁内では次の総務部長と目されている。
「ところで井上市長、6の文化のところにある『まちなかコンビニ塾1200万円』とありますが、これはどんな事業ですか?この事業も吉野君の発案ですか?」遠山が尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者