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小説「廃屋の町」(第38回)

2017年7月12日ニュース

「土地改良事業は、我々農家も事業費の一部を負担し、土地改良費として年賦で返済することになっている。所有する田んぼの面積が多いと返済する金額も増えてくるので、経営規模が大きい専業農家ほど大きな負担になっているよ。米の消費量が減っていくなかで、販売価格は少しずつ下がっている。過剰生産を抑制するために行われてきた国の減反政策も数年後には廃止される。そうなれば過剰生産が一層進んで米の販売価格はもっと下がっていくだろう。生産費は上がる一方で、販売価格の下落による減収。我々、コメ農家の将来は暗澹たるものだよ」
「農業以外の収入の方が多い兼業農家と比べて、農業収入しかない専業農家にとっては、は、厳しい経営環境にあると思います。それに追い打ちをかけるように今回の台風被害ですからね」甘木が言った。
「農家負担がある土地改良事業は、農家が事業を実施する国や県などに申請して行われている」
「通常の公共事業、例えば、道路や河川の整備、それに公共施設の建設などは、地元住民の陳情を受けて行われていると聞きますが、申請に基づいて行われる公共事業があるなんて初めて聞きました」甘木は言った。
「形だけ農家が申請者になっているだけで、主導しているのは土地改良区だ。土地改良区は農協と同じように農家が組合員となって組織している公的な団体だ。農協も土地改良区も設立にあたっては県の認可が必要だ。農協は農家が栽培する作物の生産から流通までを担当している。そのほか、農協は農業用の資機材の提供、金融、保険も扱っている、いわば総合商社だ。一方、土地改良区の方は作物の生産に必要な農地の基盤整備を担当している。土地改良区は国や県、市町村、土地改良区が行う土地改良事業費の農家負担分を農家から賦課金として毎年、春と秋に徴収しているんだ」
「まるで税金の取り立てみたいだな」風間が言った。
「そうなんだ。この賦課金は税金と同じように強制的に徴収することができるんだ」
「強制的に徴収?」甘木が尋ねた。
「税金の滞納処分と同じ仕組みだよ。農協にはこんなに強い権限はないけど、土地改良区は持っているんだ。そのうえ土地改良事業費の農家負担だけでなく、土地改良区の運営経費も賦課金として徴収できることになっている」
「運営経費って、どんな経費ですか?」甘木が尋ねた。
「光熱水費や車両費など事務所の維持経費もあるけど、ほとんどは役職員の人件費だ」
「田沼市土地改良区の職員給与が市役所職員の給与表に合わせて作っているって話を聞いたことがあります。土地改良区も『親方日の丸』ってことか」風間が言った。
「話を元に戻すと、この土地改良事業が、本当に農家のために行われているのか疑問に感じている。農家というよりも、事業を推進する立場にある土地改良区や工事を請け負う建設会社のために行われているんじゃないかって、思っているよ」
「どういう意味ですか?」甘木が尋ねた。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者