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詳論「政治とカネ」(第6回)

2018年11月9日ニュース

 私がA市の市長に当選したことは奇跡的な出来事だったようです。一部のマスコミから「A市の奇跡」というような記事を掲載されたことを覚えています。私がダークホースのごとく、三バン(地盤、看板、鞄)に関して優位な立場にあった相手候補(前市長の後継指名を受けた副市長経験者)を破って当選したわけですから、そのような記事になっても至極、当然なことだと理解しています。市長に当選した当時を思い出しますと、県職員時代の上司だった人や高校時代の同級生だったという方が市長室に私を訪ねてきたことを思い出します。それらの方々から渡された名刺には〇〇営業部長とか〇〇営業所長とかの肩書が書かれていました。特に、高校時代の同級生と称して建設会社の営業所長の肩書の入った名刺をもらった時は印象的でした。

 その方から「私のことを覚えていますか?市長さんの高校時代に同級生だった〇〇です」と、おっしゃって名刺を渡されました。
 私は名刺に書いてある相手の名前を見て、「すみません。〇〇さんは何年生の時の同級生だったでしょうか。クラス担任の先生の名前は憶えていますか?」と、相手の言っていることを確認する意味で尋ねました。
 〇〇さんは「2年生の時です。クラス担当は△△先生でしたね」と答えました。
 私は「ああ、物理担当の△△先生でしたね」と相槌を打ちました。
 突然、私を訪ねて来られ「市長さんの高校時代に同級生だった〇〇です」と言われても、在学中や卒業後、〇〇さんと親交があったわけではありませんし、卒業して30年も経っていましたから、お互いに風貌がすっかり変わっています。
 一方、私が県職員の頃に上司や同僚であった方が私を訪ねて来た時は、相手の風貌から当時のことを思い出すことができましたが、仕事上の関係が途絶え親交がなくなったのに、なぜ今になって、わざわざ私を訪ねてきたのか不思議に思いました。
 高校時代の同級生や県庁職場で上司・同僚だった方々から渡された名刺を見て得心しました。その方々は行政から仕事をもらっている民間会社や補助金をもらっている団体の役員や幹部職員だったのです。その方々との暫しの会話のなかで、高校時代の話や私と一緒に仕事をした県職員時代の話が出てきましたが、雑談をするために私を訪ねてきたわけでないことは、すぐに分かりました。本当の目的は市長という立場を利用した行政上の便宜供与を期待して、わざわざ訪ねてきたのではなかったのかと考えています。

 このように、行政機関の長と言われる立場に就くと、挨拶訪問を名目にいろんな方がいろんな縁故で首長(政治家)を訪ねてきます。訪問の目的は行政上の便宜供与への期待です。会話の中で何気ない言葉を発し、相手の反応を確かめながら、便宜供与を期待できる相手(政治家)かどうかを見極めます。便宜供与が期待できそうだと判断されると次の段階に移行します。「ギブ&テイク」の関係を構築することです。便宜供与を受ける側からすれば「行政上の便宜供与」は「テイク」ですから、前後に「ギブ」が必要となります。贈り物とか接待などの「ギブ」を行って、相手(政治家)から「テイク」を引き出そうと画策します。通常は「ギブ」が先で「テイク」は後になります。一方、政治家の方は逆で「テイク」が先で「ギブ」は後です。
 私は面識のない方やいわれのない贈り物の受領や接待は断っていましたが、一件だけ民間会社による接待を受けたことがありました。私が県職員時代に親交のあった同じ県職員OBの方に勧められ、その方も同席のうえ、ある建設コンサルの接待を受けたことがありました。この方は県庁の幹部職員(民間会社であれば役員相当)を務めた方でした。その会合の席では、もう一人県職員OBの方も出席されていました。その方の名刺には営業本部長という肩書が書かれてありました。会合の席での挨拶で、県職員時代は土木部の枢要な地位に就いていた方だったことが分かりました。会合の席には、社長は出席していませんでしたが、出席した会社の幹部社員から会社の業務内容と市町村に策定が義務付けられている法定計画についての説明がありました。A市においてはこの法定計画が未策定であることが告げられ、策定業務の入札の際には当社も参加したい旨の話がありました。業者側からこの話を聞いた私は市が行う入札の際に手心を加えて欲しいという意図があるのではないかと疑いました。

 その後、市の担当課長からこの法定計画の策定業務についてのレクチャーがありました。暫くして、策定業務委託の入札執行の稟議書が私のところに回ってきました。入札方式は一定の条件を満たす者であれば誰でも参加できる「一般競争入札」だったと記憶しています。この稟議書が私のところに回ってきた段階で、市長の職務権限になっている「予定価格」を決めなければなりません。「予定価格」というのは、落札額の上限価格のことです。私は「予定価格」を記入し、その紙を封筒に入れ更に封印して担当課に戻しました。ほどなく入札が行われ、入札結果が私のところ回付されました。この時、私を接待した業者が入札に参加していることが分かりましたが、残念ながらこの業者は落札できなかったようです。仮に私がこの業者に予定価格を漏らし、予定価格を漏らさないまでも、この業者に対し「この仕事はオタクにやってもらいたい」との「天の声」を発すれば、この業者が落札していたかも知れません。そんなことをすれば、前文部科学省事務次官の前川喜平さんが言ったように「公平・公正であるべき行政の在り方がゆがめられた」ことになります。
(作:橘 左京)

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posted by 地域政党 日本新生 管理者