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小説「朱鷺伝説」(第11回)

2017年4月25日ニュース

 雄太は家に帰ると、母と妹に学校の田んぼに朱鷺が飛んできたことを話した。
「お母さん、学校の田んぼに朱鷺がいたよ。テレビ局の人が大勢やってきてカメラを向けていたよ。それにお父さんも来て写真を撮っていたよ」
「ええ!学校の田んぼに朱鷺がいたの?9月に佐渡島で放鳥された朱鷺かしら?」母が言った。
「お兄ちゃん、私も朱鷺を見たかったわ」弥生が悔しそうに言った。
 夕方、雄太と弥生がテレビのニュースを見ていたら、学校の田んぼでエサを捕る朱鷺の姿が映し出された。アナウンサーは、9月に佐渡島で放鳥された10羽の朱鷺のうちメスの一羽が佐渡海峡を越えて本州に飛来したことを伝えた。 
「お兄ちゃんが学校で見た朱鷺が映っているよ!長いくちばしで土をほじくって餌を探しているわ。写真を撮っている人って、もしかしてお父さん?」
「そうだよ。お父さんが帰ってきたら朱鷺について教えてもらおうよ」
「うん」
 
「いただきます」雄太の家では夕ご飯の食卓を囲んでいた。
 雄太はご飯を食べながら仕事から帰って来た父に尋ねた。
「お父さん、どうして朱鷺は佐渡島から海を越えてここまで渡って来られたの?」
「あの朱鷺は季節風に乗って佐渡から本州まで飛んで来たんだよ。冬になるとロシアから日本に向けて北西の季節風が吹いてくるので、風に乗れば案外と簡単に海を越えることができるんだ。田んぼにいる朱鷺が普通に見られた昔は佐渡と本州の間を行き来していたらしいよ」
「本州に渡って来た朱鷺はこっちで生活できるの?田んぼにドジョウやカエルなど、朱鷺のエサになる食べ物がたくさんいないと生きていけないよ」

「雄太はコウノトリという鳥を知っているかい?」
「実物は見たことがないけど、写真では見たことがあるよ」
「私も知っているわ。赤ちゃんを運んでくる鳥でしょう?」
「弥生、それは物語のなかでの話だよ。兵庫県の豊岡市では絶滅したコウノトリを復活させようと、ロシアのハバロフスク市から6羽のコウノトリを譲り受けて人口繁殖させたんだ。平成17年9月に5羽が野外に放鳥されて、今では80羽近くのコウノトリが豊岡盆地に生息しているそうだ。豊岡市の農家は農薬を全く使わないか、ほとんど使わない、そして化学肥料も一切使わないで稲作をしているそうだ。また、コウノトリのエサになるカエルやドジョウなどの生き物を増やすために、稲刈りが終わった後も、田んぼに水を張っているそうだ。一度は絶滅して日本からいなくなった朱鷺もコウノトリも、野生復帰させるには農家や地域の人の協力が欠かせないんだ」

 雄太の学校の田んぼに朱鷺が飛来したことがきっかとなって、雄太の小学校では朱鷺保護センター近くにある佐渡の小学校と交流することになった。この小学校の児童たちは朱鷺の生態をはじめ、絶滅の歴史、放鳥の取組み、野生での生活について学んでいる。児童たちは教室と現地での学習から学んだ知識をもとにして朱鷺の森公園を訪れた修学旅行生のガイドをしている。
 雄太の父は、佐渡から飛んできた朱鷺が安心してこの地域に生活できる環境を作っていくことが安全な米作りにもなると考えて、農薬を使わない、できるだけ使わない稲作をしようと農家の人や地域の人に呼び掛けた。雄太の父の考えに賛同する人たちが少しずつ増えてきた。(了)
(作:橘 左京)
[編集部からのお知らせ]
・小説「朱鷺伝説」は、「朱鷺黄金伝説」と改題し、若干の修正を行った上で、後日、ライブラリーの文芸コーナーにアップする予定です。
・4月27日からは小説「廃屋の町」を連載します。

posted by 地域政党 日本新生 管理者