小説「朱鷺伝説」(第1回)
鳥追いだ 鳥追いだ だんなショの鳥追いだ
どごからどごまで追っていった
信濃の国から佐渡が島まで追っていった
何でもって追っていった
柴の棒で追っていった
いっちにっくい鳥は ドウとサンギと小雀
みんな立ちあがれ ホーイ ホーイ
あの鳥ャどっから追ってきた
信濃の国から追ってきた
何もって追ってきた
柴抜いて追ってきた
一番鳥も二番鳥も飛立(たち)やがれ ホーイ ホーイ
ホンヤラ ホンヤラ ホーイ ホーイ
(鳥追い歌)
この地域では小正月にあたる1月14日の夜から15日の早朝にかけて鳥追い行事が行われる。町内ごとにホンヤラドウとよばれる、お椀をひっくり返したような形の雪の家がつくられる。14日の夜に子どもたちはホンヤラドウのなかに持ち込まれたストーブやこたつで暖をとり、ごちそうを食べながら夜更けまで遊ぶ。頃合いをみて外に出た子供たちは隊列を組んだ後、拍子木(ひょうしぎ)を打ち鳴らしながら鳥追い歌を歌って町内を回る。鳥追い歌は農作物を食べ荒らす害鳥を畑や田んぼから追い払って豊作になるようにと願って歌われる。昔は畑や田んぼでとれる作物の量が今よりも少なかったので、鳥に作物を食べられるというのは農家にとっては大きな心配ごとだった。昔に比べて鳥追い歌はあまり歌われなくなったが、ホンヤラドウの遊びだけは今でも子どもたちの冬の楽しみとして残っている。
平成20年9月25日。新潟県の佐渡島にある朱鷺保護センター近くの水田から10羽の朱鷺が放鳥された。小学校3年生の雄太は夕方、妹の弥生とテレビのニュースを見ていた。アナウンサーが朱鷺の放鳥を伝えた。
「朱鷺にとって野生の第一歩が始まりました。今日、国の特別天然記念物朱鷺の試験放鳥が佐渡島で行われました。中国産のつがいを使って人工繁殖されたオス、メス5羽ずつの10羽が放鳥されました。乱獲と開発で絶滅した朱鷺が野生に戻るのは27年ぶりです。午前10時半過ぎ、朱鷺保護センター近くの水田に設けられた式典会場で、臨席した秋篠宮ご夫妻はじめ、島内で朱鷺の保護活動に携わった人たちや地元小学生らがテープを切ると、10個の木箱のふたが開いて最初に2羽がその後8羽が空へと飛び立っていきました。 10羽の朱鷺は、たくさんの人たちの歓声に包まれながら優雅に空を舞った後、思い思いの場所に飛んでいきました。放鳥された10羽には標識となる足輪がつけられています。今後、専門家による調査・追跡チームが放鳥された朱鷺の行動を調べることになっています」
雄太は、太陽の光を受けて薄桃色になった翼を羽ばたかせて飛んでいく朱鷺の姿を食い入るように見ていた。
(作:橘 左京)