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小説「朱鷺伝説」(第3回)

2017年4月9日ニュース

「昔の日本に普通に見られた朱鷺がどうして今はいなくなったの?」
「朱鷺が日本から絶滅した理由は2つあるよ。一つは朱鷺の食べ物が少なくなったことだ。朱鷺は水辺や湿地を生活の場所にしている鳥だ。朱鷺の食べ物はドジョウ、サワガニ、カエル、タニシ、昆虫などで、もっぱら動物性のエサを食べているんだ。昔は、田んぼに朱鷺のエサになる生き物がたくさん生息していたけれども、その田んぼが住宅団地や工業団地として開発されたため、エサ場が急速に減ってしまったんだ。それと農家の人が稲の成長を妨げる雑草や害虫を駆除するために、農薬を使うようになってからは、朱鷺が食べる小動物が田んぼから姿を消してしまったんだ」

「来週、稲刈りをする学校の田んぼにはイナゴがたくさん飛んでいるよ。それに5月に田植えをした時はドジョウやタニシをいっぱい見つけたよ」
「農薬をほとんど使わない学校の田んぼには、小さな動物が生きていける環境が、まだ残っているからさ。最近になって、農家の人がこれまで使っていた農薬が人間の健康や環境に悪い影響を与えることが分かってきたので、農薬の使用が厳しく規制されるようになったんだ。そのため、農薬がまだ田んぼで使われていなかった頃にいた小動物が、少しずつ見られるようになったんだ。佐渡島では野生の朱鷺が安心してエサを捕れる環境を作ろうと、農家の人たちが田んぼで農薬を使わない取り決めをしたそうだよ」

 父の話はまだまだ続いた。
「雄太は鳥追い歌って知っているかい?」
「知っているよ。小正月の前日、1月14日に行われる鳥追いの時に、豊作になるようにと田んぼで悪さをする鳥を追い払うために歌われる歌でしょう。学校の先生が教えてくれたよ。それに鳥追いが今でも行われている地域から通っている友達もいるよ」
「そうだね。昔は朱鷺や鷺、それに雀は農家にとっては悪い鳥だったんだ。朱鷺や鷺は水田にいる水生動物を捕る時に、植えたばかりの若い稲の苗を踏み荒らすんだ。時には柔らかい苗を食べることもあったんだ。稲刈りが始まると、今度は雀の大群が田んぼにやってきて稲穂に付いた籾を採って食べてしまうんだ。毎年、小正月に行われる鳥追いは、農家の人たちが稲の生育を妨げる朱鷺や鷺、稲穂を食べ散らかす雀を田んぼから追い払って豊作になるようにと願って行われる行事だったんだ」

「農家にとっては悪い鳥の鷺や雀は今でも田んぼにいるよ。どうして朱鷺だけが田んぼからいなくなったの?」
「さっき、お父さんが日本から朱鷺がいなくなった理由が二つあるって言っただろう。一つは田んぼの開発と農薬の使用だ。もう一つの理由は朱鷺の乱獲だよ。昔は装飾用や食用として朱鷺が捕獲されていたんだ。朱鷺の羽の色は全体で見ると白だけど、翼を広げた時に見える風切羽や尾羽は薄桃色になっている。この色は朱鷺色と呼ばれているよ。朱鷺の羽は装飾品を作る時に使われ、朱鷺の肉は薬膳料理として使われていたそうだ」
 雄太は朱鷺色になった翼を羽ばたかせて空を舞っている10羽の朱鷺の姿を思い出した。
(作:橘 左京)

posted by 地域政党 日本新生 管理者